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2016年12月1日更新(67号)

楕円のボール    鈴木 禮子

このあした季節が動きむつくりと檜扇の根が盛り上がりたり
鬱金(うこん)いろの根茎までが土を割り逞しきかな命を伝ふ
生きてゐて呉れたのねとわが口づけす夏の王女の花よヒオウギ
一日とは言はず語らず一刻を楽しめといふ花の柿色
いさぎよき一日花の一株を植ゑ替へて今日の仕事の終り
真夏日はひとよさにして晩秋へわが体調のつき行きがたく
あさみどり(いか)つきさまの種の莢いくつかありて王子なるべし
うつくしき詩集がとどく 行間に栗鼠と木の実の触れゐる気配
詩のしらべ友に()も似し風情ありあるひは逆かあはれめでたし
こころ(たぎ)る詩篇がひとつ「遠い遠いあの赤い花」とぞ
赤い花はなにであったか恐らくは遠い憧憬触るるなき珠玉(たま)
透き通りこころゆさぶるポエムなりいま花の中其のくれなゐの
賀惠さんが贈りくれたる詩集あり若き頃より瑠璃色が好き!
老いてなほ美術館員を志す痛みはすでに論外にして
迢空を師と仰ぎしといふ友の瑠璃色にして涼やかなこゑ
(ゆたか)さんといふかた覚えてをりますか」名伯楽にて又なき師にて
足のうら強張(こわば)りくるは腰のせい 事なげにいふ医師は若しも
電車にて通ひ続ける身のツツガ痛みの無きは頭の身なり
わが友が蜂窩織炎になりしといふ吾も苦しみし蜂窩織炎
しゃがみ呉れし子の背にやつと掴りて立ち上りたる夏のおどろや
落ち蟬の如くバタつく砂利の庭無援のままに動けずにゐる
神無月に入りて見上ぐる蒼空は拭ひしやうなコバルト・ブルー
天に向き雲を視るのが好きである森閑とした秋のまひるま
パソコンに言問ひにけり兼題の『お互い様』は口語か否か
パソコンの検索窓の口語文字『何でも聞いてください』といふ
単漢字つなげば熟語いと易く桃の実ひとつ熟れて揺らいだ
碧潭(へきたん)と言へば忽ち目に泛ぶ深くきびしき淵のさざなみ
口語体が世を席巻し時がゆく旧仮名すでに邯鄲の夢
どつぷりと暮れ果つるまで未だすこし時は残らむ猫いだきつつ
楕円ボール転がる先の見えざれば人生(ひとよ)に似るとコラムに読めり

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