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2016年12月1日更新(67号)

不思議なえにし    馬宮 敏江

山を越えトンネル抜けて拓けたる丹波篠山みどりの中に
点在する人家に揺れる物干し台ここにも静かな暮しのありぬ
明智光秀(みつひで)の善政今も語り継ぐ福知山城小春日の空に
公園の子猫に会いにゆく曾孫ヨチヨチヨチとスニーカー履いて
母親となりたる孫が膝に抱く吾子に聞かせる 小サイ秋見ツケター
手付かずの亡夫の丹前着たる息子()(せな)の丸みも夫のままに
何事もこれが最後と思いつつトースター替えぬ只ただ白き
横の席居眠る少女の長き髪()が肩に触れ若さの匂う
この夏の暑さにいじけし木犀のようやく匂う初冬の町に
昨夜(よべ)の雨晴れて隈なき秋の空鵯のこえ透りて去りぬ
満員の待合室に目を閉じる四方山話耳が楽しむ
午後は晴れ 予報信じてショッピング帰りの時雨に荷物の重く
チッチッチ幼い雀の声のして餌を撒きやるにそれっきり来ない
裏の栗・前の畑の新米です 産地明記で友より届く
会いたいよー 吾待ち呉れる友のいて未だ暖かきふるさとの風
行きずりの吾に声を掛けくれる「模様します(1)」ふる里言葉に
残照は臨海の空を朱に染めやがて生駒の嶺まで染めぬ
明日は枯れん風情に揺れる風知草16号の風吹くままに
10号が小さい秋をつれて来ぬ簾の揺れに笹のそよぎに
雲の()とアベノハルカス競い合う移ろう季節のはざまの空に
太閤の露と消えにし夢のあと天下茶屋の名のみ残りて
火山列島気ままに荒ぶる神たちに身替り地蔵となれる幾たり
思いがけず白毫寺の庭に師と会いぬ「写真ご一緒させて下さい」
万葉の神と仰ぎし師と並ぶ萩しだれ咲く白毫寺なりし(犬養 孝先生)
散り急ぐ水木の落葉舗道を埋め時雨のあめに色よみがえる
ポンポンと音ひびかせて干す敷布まぶしいほどの秋の陽射しに
鉢植えのサザンクロスの咲きつぎて見るを叶わぬ十字星恋う
菊の供花、みかんに柿とご先祖様真っ赤な秋のお仏壇です
大和川に鴨の一群帰りきぬ遊歩道より「おかえり」の声
みちのくと和泉をつなぐ月だよりまみえぬ歌師()との不思議なえにし

1.「模様します」は「雨になりそうですネ」と昔からの挨拶です。

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