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2017年3月1日更新(68号)

鎮もれる森    馬宮 敏江

蒼天に黄葉煌めきてメタセコイヤ明日は尽きなん命のかがやき
あかあかと夕日を透すつるし柿狙いて寄りくる雀二、三羽
大和川に鴨の一群かえりきぬ追いつ追われつ乱れて遊ぶ
着ぶくれて(せな)を丸めて移植する早も(つの)ぐむ紫蘭・擬宝珠
雪やコンコ ♬ 寒夜を流し近づける「買い物難民」救う灯油車
紋付で正月さまを迎えいし亡父(ちち)の姿の今はなつかし
日天(にってん)さま月天(がってん)さまに氏神さま四方拝する祖母の在せし
手を合せ毎朝五つの願いごと欲を言うなと亡夫の声する
去年今年貫く棒と句にいえど衿を正して新春(はる)を迎えん
選抜の不来方(こずかた)高校に心留む城に寝ころぶ啄木のみゆ
あしたより日脚の伸びゆく冬至が好き柚子かき分けて長湯になりぬ
牧水の春のはじめとうたいたる今日しみじみと如月の雨
十日間治療入院したる()の今日三日目と日記にしるす
幸せだネ 友は云えどもそれぞれに悩みは持たん二つ三つ四つ
今日ひと日歌会の友に貰いたる生きるパワーを抱いて帰る
()さい手を構えて おかえり のハイタッチ二歳のひ孫私のアモーレ
アイパット繰りて好みの消防車二歳のひ孫の鋭き指先
満開の花かんざしの福娘 福笹売る声平和の風に
怠れば部屋は忽ちゴミ屋敷週に一度の爽やかな朝
快いうたた寝醒めてまた今日も刑事ドラマの結果は知らず
こうのとり、ロボットアーム、小衛星、鉄腕アトムを見ているような
心重き入院見舞い、喪の見舞いいつか吾が身の投函の音
トーストにコーヒー入れて朝刊読む慌てること無き至福の時間
昨日よりも寒さゆるみし朝だから整骨院に歩いて行こう
不死鳥とう「フェニーチェ堺」と名付けられ舌かみそうな市民会館
二上(ふたかみ)大津皇子(みこ)の眠れり金剛は楠木正成(まさしげ)の城 河内野は雪
地震。時化災害少なきこの町を御陵はんに守られてと謂う
一直線に履中。仁徳。反正陵深き緑の森に鎮もる

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