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2017年3月1日更新(68号)

リハビリ    稲生きみの

ガン告知をされたと友の帰りくるただ力こめ手を握り合う
看板の字のようだねと言われしがメールは不得手文書くわれは
爺じいの見舞いに彼を伴いて久に会う孫の若さまぶしく
結婚に式はしないと女の孫は奨学金返済のこと問えば話せり
病院に夫は居るなりひとりでは無いと思いつつ夜を過ごすなり
寂しさは人それぞれに裡深く暖かくして夜を眠らん
病院食も馴れたか夫を思いつつ一人の土鍋に豆腐がゆるる
這えば立て立てば歩めよリハビリに険しい顔の夫見守りぬ
リハビリに夫の入院長くなり夫婦の会話少なくなりぬ
洗濯物リュックに詰めての行き帰り背なに夫の温み感じつつ
「笑って」とほほをなでれば無表情の夫は笑顔にわれは帰りぬ
家の中に音を立てるもわれひとり(あるじ)の部屋に演歌を流す
風邪発生に面会中止なり肌着など届けて帰る寒さ身にしむ
リハビリの専門病院病廊に励ますナースの声暖かく
バスが来て雪がちらちら降り始めわれ降りる頃静かに吹雪く
ひんやりと秋の朝かな茶を飲めば湯気やわらかに顔にかかれり
よく見れば造花のありぬ秋彼岸信貴霊園に供花(はな)のいろいろ
階段の手すりに赤きリボンあり目悪き翁の目じるしとして
豪華列車に「乗ってみようか」夫が言う八十四歳あてもないのに
留守の間に友来てくれしや朝採取りのイチゴ鮮やか息してるがに

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