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2016年3月1日更新(64号)

楓のなみだ    馬宮 敏江

春隣という季語を教わりぬ氷雨の下に芽吹く紫陽花
かすみ草山盛り活けて金魚草根じめに彩り部屋は春、春
木曜の夜の楽しみ投稿歌ベッドに読みつつ眠りに入る
購うごとに灯油の値下げたのしくて節電せよは大方わすれ
ひと片の雲なき青空大寒をそこはかとなき春のただよう
爆購いとう旅行バッグが群をなすするり抜けつつ改札口へ
眠られぬ夜は父母のこと兄のこと在りし日引き寄せ窓白みくる
夕やけこやけ子等の歌ごえ絶えし町お盆のような夕陽が燃える
誰もいないオフィスタワーのエレベーター梅田の夜景ひとり占めする
美智子妃を見守る陛下の見目やさし斯くやありたし夫婦のかたち
嶋太夫 ! 大向こうよりかかる声浄瑠璃一すじ最後の舞台
太郎冠者醜女を釣り上げ口惜しがる囃子さんざめく初春の舞(釣女)
久松をお染が涙で口説きをり操る人の腰も駄々っ子
人間国宝の引退相次ぐ文楽の世代交替しずかに流れる
雑煮を食べ2日、3日、七日粥流れも速き年のはじまり
今日ひと日釧路大雪那覇夏日、日本列島の長き連なり
ギャァギャァと()声を鳴きし明け烏初雪ふるかも鈍色の空
大間(おおま)(せり)まぐろ千四百万円というニュース景気上昇のあかしとも聞く
日曜は休養日かと思いきに家族でお出掛け駐車場は(から)
陽の届かぬ庭辺に並ぶ椿たち一番咲きは白玉椿
あの土手に土筆の顔だす頃ならん故里の空二月陽の中
友よりのドロップスの缶からからと振れば昔の音そのままに
ハロウイン・クリスマスイブも聞きあきぬ心おだしく春迎えたし
三十余年勤めし己が身のいとしと退職近き息子()の呟ける
見上げつつ銀漢・天狼教わりし亡き師をおもう寒天の空
りゅうぐうへ向うはやぶさ土産は何?小さな体に大きな使命
「新元素」「ジエッと旅客機」一すじの悲願と云う語のなんとまぶしき
血のにじむ努力の結ぶ羽生選手吾も最後のガッツポーズ欲し
十万人集めしライブの長渕剛うたげの後に「寂しいな」と云う
無遠慮にドリルを幹に打ち込んで滴るシロップ 楓のなみだ

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