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2016年3月1日更新(64号)

流れゆく日々    石隈かおる

窓を開け日ノ出の空に手を合わす今日のひと日の無事を祈りて
「万葉まほろば線」に乗りたればゆらりゆらりと遠いむかしに
梅の花風に吹かれて匂いたつ顔を近ずけ息を吸い込む
屋久の島(しま)と成り生れし海に帰れない神々たちはいつも涙すと
波の音しずかに聞こゆる友の家はるかに広がる東シナ海
味噌汁の具を取りに行くよと友は言いワカメ引き寄す朝もやの海
紫陽花をゆうれい花と友は言う花を見つめてしばしたたずむ
この世よりあの世に身内多くなる黄泉へ旅立つ又ひとりあり
風の中髪逆立ててただ歩くこの(いら)つきよどこかとんでけ
風の中長き黒髪なびかせる見知らぬ少女しばし目で追う
ほほ笑んでふるさとの町にたたずめる大阪の友昨夜の夢に
大原の三千院を訪ね来て紫蘇の畑に初夏の風吹く
わが友は今日もウキウキ着飾って子犬を連れてデイ‐ケアへ行く
雨の中大正池の木道をすべらぬように静かに歩む
池の鯉「うちの子」と言う職員さん背に刺さる針抜き取っていた
紺碧の空に向かって背のびする太陽に恋するひまわりの花
窓の外隣の庭の木々の中ひときわ赤きさざんかの花
露天風呂湯床にねそべりうとうとす木の葉がゆれる秋昼下り
夕やけの色に染まらず白き雲風に吹かれて流れのはやし
老いて知る息子が大人に成りしこと空気を読めと又諭される
ひまつぶし行き来する人数えいるカフェの窓ぎわ老女はひとり
「空が好き」言ってた友はふるさとで今も見てるの薩摩の空を
ひと吹きの風で散る葉はいかほどか黄茶の絨毯さわさわと踏む
酸漿をくちゃくちゃ揉んで種を出ししぼんだ口で鳴らしてみたり
秋の月思いめぐらせ筆をおく何も浮かばず迫る短歌(うた)の日
雪の町おとぎの国かゆめ世界降りかたしだいで天災となる
ベランダの手すりに積る初雪を指でかきよせ口にほりこむ
台湾のガイドが叫ぶ ココデ待ッテネ ! 日本の客 OK ! と叫ぶ
元旦を大日如来に会いたくて時は遅いが急ぎ高野へ
おたがいに老いたる身体(からだ)寄せ合って若き時代の話花咲く

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