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2010年3月1日更新(40号)

暗黒星雲    月山 幽子

棘ぬかれバラは権威を失ひぬバカラの器の暗黒星雲
酢でしめる鰆なかなか頼りなく雪雲散りてむきだしの空
ちぎられた月ぼろぎれのさまにして夜中に瞳洗ひ清めり
ガーベラと麦穂を生けて口笛を不良じみてる三月の風
コーラーが脳の一部を刺激する有精卵は静止せるまま
ネジゆるむ物干し道具いきものの呼吸するらしうすら笑ひて
焼きたてのパンの匂ひのみつる部屋にダリア崩るる音を掬へり
安もののカーテンもるる月明り月も貧しさ強ひられてをり
雪の白ギゼンの如く輝きぬ演技たくみな女の通る
飛行位置あまりに低レビル街に吸ひこまれゆくルフトハンザ機
黄の色の太陽めがけ指をさすかろきケイレンすこしみだれて
柔かき四月の空は上等のワインの香り滲みくるなり
トランペット音すべりゆき昼溶かす荒き仕草にコーラー流す
餅をつき嘘つき尻もちどんずらこつきつきつきの米つきバッタ
身辺に塩置くだけでひきしまる腐りはじめるもの多くして
うまい嘘つけた度毎一万円貯金してます長生きしすぎて
粗野なるは電気コードをひきちぎるばかりに抜きぬ落雷のあり
夕暮れは春の気配を含むともビニール袋が兎に変る
ひとときの明るき光の消えゆかむ雨の素粒子かすかぶつかる
偽札を並べて居ればマント着た風が散らして遊びの終り
ボヘミアングラスにさせるヒメジオン、アンバランスに風を挑発
忘却のなかに現わる探しものギコギコギリと粗野に扱ふ
花泥棒追はれ追はれて帰りきぬ玄関先の白雲のかげ
濁点のごとく夜はふけてゆき七夕祭の嘘なる願ひ
ヘルペスの蝉なり朝よりカレー食べ一日ゆっくり怠惰みがかむ
ユタンポの水の腐れが気になりて胸さわぎする老婆のありぬ
コリゾラス・ネオンテトラのおだやかに暮す水槽みつめる老婆
無菌室のかくも静かに。シヤ―レ―の中に“コレラ”の菌ふゆる楽しさ
紙とペンあるから文字を書いてゐる人畜無蓋の有毒婆さん
朝より豊かな食事作ってる老婆の胸よりとび出す般若

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