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2010年3月1日更新(40号)

迷走つづく    馬宮 敏江

歳晩の弓張月に誘われて最後の賀状の投函すます
元日の夜空に満月澄みあかり良きこと重なる年にありたし
昨日今日何も変らぬ朝ながら衿正しいる元日の町
娘に孫にはち切れそうな家内も三が日過ぎもとの空っぽ
華やかに振袖競う成人式吾が娘に付き添う母親のあり
歳の内に柊におい線路沿いブーゲンビリヤのなだれ咲く怪
あと少し 春待つ朝の寒の雨はじける構えに青むぎぼう珠
音を立て地を這う青桐燃えて散る朱きもみじ葉それぞれの秋
友逝きて半年を経ぬ主なき庭の紅梅日ごとふくらむ
日は長く月は早しと嘆きいるひとり暮しの亡友(とも)の夫は
初春の穏しきひかりに当麻寺さんざしの朱き実 ろう梅匂う
ほの暗き金堂に射す窓の陽に広目天の雄々しき立像
いま頃は水仙、山茶花咲きていん見る人の無きふるさとの庭に
紅葉のたよりに心さわぎたる日も遠くなり炬燵との日々
蟷螂なれば疾うにひと世の終りしを元気いただき大根漬ける
はからずも声かけくれし人ありて寡黙なりし日の温き夕ぐれ
寒の夜をふんわり温き床に入る電気毛布はわたしの至福
ささやかな年金より落つ介保料お世話にならぬを幸せとして
宮田さんお久し振りです貴男の短歌(うた)紙上にまみえぬひと年を経て
デパートのグルメに群れる長蛇の列遠き日おもう暗き行列
幾度か捨てんと思へど捨てきれぬ亡夫(つま)を支えしトライのボール
晩年をマンション暮しと越しゆきぬ屋に三十年のにおい残して
ふる里は秋まつりなれ野の道にだんじり並ぶまぼろしの見ゆ
友の手術に心さわげるひと日なり音もなく降る如月の雨
発掘の難波宮跡の一枚瓦古代も宇宙もえいえんの謎
探査機は月に水跡確認と何時か発進ノアの箱舟
原発の岬は今日も吹雪きいん若狭の任地へ孫は夜汽車で
新墓の法要終えぬ二世紀をみ(おや)の眠るふるさとの地に
豊かさを食べて唄ってこの国に日々伝えくるハイチの悲惨
もう一首 二十九首でつまずきぬ締切りまでの迷走つづく

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