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2009年9月1日更新(38号)

寂庵の庭    馬宮 敏江

雄叫びも今はまぼろし根来寺の静かにたかき泰山木の花
ほんの少し不安抱きて投函す木立の隅の古びたポスト
学園のチャイムけだるく流れくる若葉ととのう木立をこえて
庭にきてふた声を啼き鶯のつぎのひと声遠くの庭に
おそろしく長き針もつサボテンのげにもやさしきピンクの花咲く
友の詠むゆりの木の花に出会いたりはからずも来しみささぎの道
浅香山、三国ヶ丘に香ヶ丘ぺタル踏む足弱りぬことしは
あざやかに月面うつす探査機の「かぐや」はつきよりもう帰らない
せっかちの夫にしあれば迎え火もはやばや済ませぬ命日六日に
ままごとのようなお膳に盛ってゆく亡夫四年目の迎え火を焚く
文机の奥より出でし亡夫の鍵もしかして埋蔵金かも
ふるさとを思えば遠き幻の母の丸髷 柳絮舞うまち
「弘化二年子孫に伝う」文書出ず漆黒の梁肩に重たし
二百人に笑顔、ご法話の寂聴尼嵯峨野の庭に浅き春風
大谷焼、蜂須賀桜、点てんとふる里置きて寂庵の庭
屋根を越え天まで伸びんか一本の細竹梅雨の風に揺れつつ
大雨過ぎたちまち烈しき蝉の声 梅雨明けぬまま八月に入る
陽差しうすき小庭に植えしミニトマト「凜々子」はまさに凛と実を成す
一望の稲田はみどりの風に揺れ江州米の育つたしかさ
ふるさとへまた東京と旅重ねポカンと口開く豚の貯金箱
娘の見舞十月となりて帰りきぬ手足を伸し吾が家一番
新幹線の楽しみなるを富士の嶺も伊吹の峯も梅雨雲の中
東京より帰りて温さにつつまれぬ新大阪の人混みにいて
そこかしこ雑木林の残りいて独歩の「武蔵野」偲びて歩む
午後三時町にながれる「ふるさと」の曲日々楽しみとなる時をまちつつ
日に日にを無事に生きるが仕事にてことこと煮ている牛蒡大根
一年余シャッター降りいし町工場創業再開の音うなり出す
人影も無き高校の運動場三十五度の真夏日つづく
美男美女それとも醜女さだめなき縄文人のたかき頬骨
民主勝つ民主勝つとメディアは謳う私は私流されぬよう

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