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2009年3月1日更新(36号)

時間を超えて    月山 幽子

()鏡にうつる月代手に掬ひたはむれゆかむ時間を超えて
滅ぶべく命はじまり散るために花はあるらむ造花を求む
玉葱は発熱発汗ベランダに量を減らして異臭を放つ
とことんに遊び果てむと見返ればのっぺらぼうの黄色の笑ひ
荒ぶれるスサノヲのもつ美しき誤解は楽し退屈しのぎ
しのび足でうかがふものを背におぼゆ貧乏神の不逞な目玉
さっぱりと短歌を捨てよと村木道彦が朝な夕なに肩たたくなり
にんげんの滅びしあとにガシャガシャと地球を覆ひ歩くロボット
とぶ鳥と逆さに垂るるこうもりと共棲してゐる桃源洞窟
研修医の実験台になる患者知能だけなる怖ろしき医師
新鮮な海老に残れる背わたの砂が平和な暮しの軋みとなれる
成金のいやしき色の金の寺すべてのひとは金をし恋ふるや
東海の小島の磯の白砂に吾泣きぬれざり浦海なれば
赤き風車廻りてゐたる不思議なる夢よりさめし深夜のブルー
無音こそ最高の楽ベルリオーズ・ラフマニノフ・ケチャケチャ淡し
佐渡こひし弥彦も恋し山上の鳥居に記さるる暴父の名前
豚汁にバルサミコスを乱れ入れ偶然の功 天来の詩語
合歓の木は在ることさへも気付かれず荒ぶる風にただにゆれゐる
無機質に告げるヘクトパスカルが夜の重さを緩和しくるる
菜の花の水吸ふ音の脈うちぬノスタルジーのみちみちきたる
ビッグバン自明のなかに無臭なるシクラメンあり冬らんじゅくし
てふてふが陸に向ひて帰りきぬやぶれた翅再生されて
金星の厚き雲に閉ざされて灼熱するも涼しくみゆる
月照寺静けく眠る山里に胎盤出来ざる石女の訪ふ
ポロポロロポインセチアの萼落ちて月無き夜の黒き鳥影
今日できることは明日にのばしつつ空だけをみる闇だけをみる
もうすまい感情移入のお遊びは 空間みごとにふくらんでくる
枯れてゆく花を嘆かず眺めをり茜の夕に造花を求む
ひやかしに行ってしまったディナーショウ熱意のあれば押し切られたり
日記がわりに短歌作ると言ふ人を少し思へりやがて虚に落つ

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