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2023年1月1日更新(86号)

ジャムセッション     鈴木 禮子

(ひよどり)の鳴く声がして神無月、赤き樹の実をつつきて消えぬ
一夜さを京都で会ひて(いだ)き合ひ姉妹と言えどあれは眩暈(げんうん)
別れとは肌寒きもの寂しさに手を振りたれば鳴る発車ベル
あはれ、そが(つひ)の別れと知らざれば遠離(とほさか)りゆく車両を追ひつ
衰へてものも言へざる妹に大病院も手立てを持たず
幾日か通ひ詰めたる道ありて強情(しぶと)く咲くかトレニアの花
我の場合生死の程は不明ぞと告げられ乍ら生を得たりき
硬膜下血腫で死んだ人多く吾は奇跡の中なるひとり
夜中にはどんな突飛な行ひを吾がせしものか全く不明
誰知らぬ奇術の如き生を得て短歌(うた)詠むわれが今此処(ここ)に居る
何時よりか秋深まりて日(だま)りの屋根裏に寝るネコ五・六匹
猫族は睦まじげなり 白、茶色、(まだら)もありて御昼寝タイム
わが為に()(あがな)ひし(ふみ)ならむ 岡井隆氏の「静かな生活」
一首づつ魔法のごとく短歌(うた)()れて変換するか言葉が短歌(うた)
鼎談の歌人を囲むジャムセッション 聴衆我もまだ若かりき
日に一首自らに課す定めなり 最晩年の「最終歌集」
わが理解及ばぬ時は追はずして小さきビルの満席のなか
さりながら高まりてゆく気もありて夕方近き川の水追ふ
夕焼けもやや遠ざかり洛南の桃山城も暮れてゆくにか
と或る日のデイサービスの立ち話、相手と共に(おのれ)(ゆる)
帽子(かぶ)り禿げた頭を隠したの!名案ねえと見詰めて二人
(てら)ふことも大方消えて霜月や堂々過ぎる老いとなりたり
意識無しと確認のある時ありて()の時吾は死ねば良かった
長寿期は人に何をば与えしか(こな)し切れない事象が残る
(ころ)ばぬように、声掛けられて苦笑ひ人間(もど)きの吾なりしかも
令和五年、目交(まなかい)にして仰ぎ見む 秋の紅葉(もみぢ)と舞ひ散る桜

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