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2023年1月1日更新(86号)

お月さま   馬宮 敏江

お月さま 様と呼ばれる星ひとつ皆既月食の空に吸われる
何事も無かったように皎皎と皆既月食終えし満月
音もなく素枯れし庭の初時雨十一月の雨の匂いす
息子()と嫁と墓参りにと故郷へおひとりさまとなりて夕焼け
変り無い? 電話を呉れる嫁と孫「鬼の平蔵」楽しんでます
さようなら 手を振り帰る保育児の黄色い帽子の列波を打つ
リモコンの次第に増えゆき取り違う便利でありて不便でもあり
神無月 神在さねどふる里は野の道連なり御こしの進む
だんじりの赤い提灯ユラユラと付いて廻りし遠き思い出
玄関の前にこぼれし糞いくつ何鳥ならん姿のみたし
木犀の散りて彩りなき庭にひそかに育つ椿の蕾
いたく降る時雨に秋の深みゆく友に便りの書きたき夕べ
「晴れ男」自負する息子と飛鳥路へ初冬の空の底深き青
飛鳥路の棚田は冬の気配して野焼きの煙ゆたゆた流る
ひそやかに棚田の丘に推古陵 ()が訪れし白百合の束
藤袴・軒の干柿陽を反し しみじみ深む吾が庭の秋
月便りようやく書きて友二人ポストへの道木犀の香の道
百鳥(ももどり)のさえずり透る杜の道 仁徳陵(みささぎ)の空 藍より青く
鴨・緋鯉 人の気配に集いくる孤高のごとく岩に立つ鷺
みささぎのお堀は程よき散歩道 初霜坂に射す夕茜
若き日に焦れて求めし砥部・備前 心を決めん断捨離の世を
黒黒と「かもめ」と書かれし新幹線 いいネ 日本語に会えて
仏だんに掌合わす孫二人小さき四つの足裏が並ぶ
生き甲斐は何処かに消えし日々なれど友あればこそ繋ぐうたの道

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