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2022年1月1日更新(83号)

和泉の山なみ    馬宮 敏江

一輪の桔梗は日日に色深みそこにただよう紫の風
朝夕の白樫ゆらぎ秋の風蝉がら二つしがみつくまま
椎の実を友と拾いし遠き日の鎮守の森は今もゆたかに
本棚の整理しながら読み返す友の手紙のまた捨てられず
大谷焼。蜂須賀櫻。ふるさとを寂庵の庭に主みまかる
カサカサと柿の葉落つる音きこゆ地にかえりゆくもののしずけさ
無花粉の杉を植林する人の百年先の夢をめざして
ホツホツと一月(ひとつき)遅れの金木犀ブーゲンビリアも共に花咲く
デイエゴが咲き柊におうこの町に晩夏と言わん初冬と言わん
木枯らし一号ニュースにみえて風強し千両の実の色づき初めぬ
()や孫にかけたる電話はすべて留守 紅葉見頃の日曜の朝
コスモスの波打つ朝に()れし息子()の古希の祝と盃交わす
「ご苦労さま」ねぎらいつつも何となく寂しさありて「定年」の二字
友よりの鳴門金時・阿波スダチよみがえりくる故郷の香の
雪降れば思いはめぐるみちのくの歌友(とも)の便りの絶えて幾年
友への文、京都、深草、万帖敷、宛名ゆかしく楽しみて書く
「バアのだよ」孫より渡され赤鉛筆ナイフで削りし匂いの残る
はなれ難き床の温もり窓を開け木犀大樹の香にまた目をつむる
()に送る梅干し・らっきょ・干し柿と何時まで続くこの年行事
(せわ)しなき今年の秋の衣替え来年もまた会えますように
冬ざれの庭に千両万両の赤 やっぱり万両 実の重おもし
くきやかに二上、葛城、金剛と和泉の山なみ 晶子の歌にも
南北朝の行在所跡の金剛寺 哀史に積るもみじの落葉
二兎を追うは一兎を得ずを覆す大谷選手の涯しなき夢
真子さまより真子さんとなり給う貫きし愛深き秋空

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