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2022年1月1日更新(83号)

デイサービス   稻生 きみの

週一度のデイサービスを楽しみぬ幼稚園とぞ言う老人(ひと)あれど
送迎車ゆられコスモス咲く道を行きて帰りぬ少し疲れて
運動にこくご、さんすう、ぬり絵などデイサービスに時間割あり
ゆったりとデイ時間は過ぎゆきぬレクレーションは幼児の遊び
暖かく時は流れる昼下がり居眠る人あり歌う人あり
養殖か中国産かそこそこのうなぎ丼今日の昼食
日に一度娘より電話ある人と無しが当たり前と笑うひとあり
男性にはさぞ退屈ではと物静かに座りいるさま自由時間
一人居の家は淋しとデイのある日は休みなく来ると言う女性(ひと)
道のゴミ拾いつつ行く人見たり胸熱くなるバスの窓より
此の街で50年を商いし店主は閉店のわけ聞かずにくれと
本当に突然変異はあると知る人の変わり様信じられずに
去る人は追わずに行こう親しみし過ぎにし日々の紐を解くなり
そのわけも原因も言わずに背を向ける電話にも出ずの人を憐れむ
「きれいね」と声をかけられ見上げたる空澄みわたり光あふるる
胸広げ空を見上げることもなく日日過ごし来ぬ早霜月に
気が付けば人ら集まる沈みゆく夕陽に拝む人の姿も
完熟のトマトのような夕陽入り真綿にくるまる温み残りぬ
老い深き姉に無常のガン告知信じよは無理こころ騒ぎぬ
気丈なる姉ゆえ常と変わりなく少しは弱音を言わぬものかと
医師よりの説明の日の近づきぬ姉の電話の声低く聞く
診察室で医師淡々と告ぐるなりあまりに無常余命のことなど
姉へかけることば探してしばらくを黙しつつ深呼吸くり返すなり
市民検診は名ばかりなるかその或る日ステージ四のガンの告知は
寄りかかる大樹のごとしわがうからの扇の要の姉の名ミサ子

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