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2019年12月1日更新(76号)

飛鳥は青空    馬宮 敏江

月便り途絶えてふた月病む歌友の如何に在すか冬深む空
一枚となりしカレンダーの雪景色 高山辰雄(たかやま)画伯の「山の音」きこゆ
ひとひらの雲なき青空見上げつつめぐりに病める友の幾たり
木犀の花果て柊の香の流る冬の足音(あおと)のおだやかならず
ようやくに匂い満ちたる木犀なれ明日はこぼれん今宵の雨に
無残にも息子()の刈り込みし金木犀もうひと度の花に会えるか
狂暴となりたる台風19号阿武隈・千曲川の優しかりしに
招かれて久びさに聴く琴の音の「浮船」の調べ萩咲く庭に
ひそやかにやぶ甘草の残り花 亡友(とも)の形見の庭秋ふかく
影を写す障子無けれど柿の連食べ頃ならんガラス戸に映ゆ
()らのためつるす干し柿陽のゆれて今年の行事のひとつを終えぬ
不器用でのろまでも良いコツコツと孫らに願う荒ぶれし世を
訪れる五歳のひ孫のハイタッチ 帰りは忘れずハグを頂く
春の陽を焦がれて待ちし日をおもう38度の酷暑の窓に
庭に萩、木犀の香に酔いつつも台風の惨状テレビにいたし
黒板を拭く後姿(うしろで)の亡夫の夢 彼の世にもまた教師にあるらし
世に在らば狂喜の夫の浮かびくる ラグビーWC今日開幕
チャンネルはW杯一色 花園に幾度通いフルバックの夫
逝きし友・介護施設に入りし友 キラキラの日は昨日と思うに
「青天の霹靂」と言う()の朝ごはん農耕族の(すえ)の幸せ
もういいよ よぎる思いのままあれどいつしか探る三十一文字
杖を手に西行在す広川寺 近つ飛鳥は青空・紅葉
推古陵・用明・敏達と陵めぐり野火の煙のたゆとう中を
石段を見上げて是か非か悩みいる太子の在す叡福寺の青空
やぶ蘭にヒラヒラ遊ぶしじみ蝶 我が家の庭に小さい秋が
必着の月便り待ち十日経ぬ胸のさわぎの日々に深みし
ひたすらに便り待ちつつ日の暮れぬ郵便受に歌友の文無し
みちのくと京都、堺を結ぶ糸短歌のえにし太く長くと
この度はどうどう廻りの歌ばかり歌友の病いの安かれとのみ
みちのくの空ははるけし村上さん楽しいお歌待っております

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