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2019年9月1日更新(75号)

山滴る    村上 豊

令和とは明るい未来を予見すと五月の光り確かに明し
英訳はビューティフルハーモニー評論家言ひ令和始まる
昭和、永き戦争 平成、天災多く 令和老人増加あなかしこ
万緑の輪唱(カノン)ビューティフルハーモニーまさに令和のことぶれらしく
ありふれた(にち)にちのなか万緑の輪唱高まるやうないきほひ
天気予報はづれ朝よりどんよりとこの気寒さは空の挫折か
ヤマセとふ気寒き風の入り込みて「夏」の感じを当地は知らず
歳時記を探せどあらず「青葉冷え」もとよりヤマセはどの本にも無し
万緑のヤマセの中のスーパー店に屯しゐるは老人ばかり
減額の年金も子らはあてにするいいことなしとむっつり老貌
カート押しつつ老人思ふ「スーパーに来しが高価(たか)くて買へる物なし」
世の全て面白くなし むっつりの貌をのせたる老躯がうごく
而して加齢者ばかりぞくぞくと増えつぐ令和元年の夏
山男山ガールらがTVのカメラに笑顔見せつつ並ぶ
山開きのニュースを観つつ健康な人らのパアー全身に受く
羽咋郡増穂の浦に居を移し第一信はさくら貝の(うた)
女わらはの爪のごときが茜さしあなさくら貝(ひら)たき貴族
さくら貝ときに虹彩淡く帯び犇めきあひて朱の沈黙
夕茜又はサーモンピンク色さくら貝とはふさはしからず
貝偏に有は宝で兄は賜と 歌友より届くさくら貝の小箱
海恋ひてささめくこともあらむかと夜の机に置くさくら貝
「躑躅燃ゆ」季寄せにありし句のさまに朱を噴き上げて花皐月燃ゆ
初物のさくらんぼ買ふそれだけで夏を手にせるやうな気分に
夏の朝ショパンの曲がラジオより今日一日を爽やかにする
キンキンに冷えたるビール 毎日が父のであれと男は思ふ
父の日のビールのコップ並べ置き(ちち)と乾杯吾は末息子(ばっちこ)
好物の蛸のぶつ切りまだ噛める老漢祝はれてゐる父の日
百合咲いて「夏の香り」を満たすときわれは一瞬王者の奢り
短歌一首書きたる葉書届きたれ返歌詠まむと観る雲の峰
万緑の中に一人し佇つ姿思ひみれども‥‥さて行処無し

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