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2018年12月1日更新(72号)

韋駄天    村上 豊

天灼く日夏帽かぶるわが(かしら)射し而して短歌生まれず
酷暑極暑恣にし夏逝くかモーツアルトのレクイエム捧ぐ
おそ夏か初秋か不明手庇になかなか来ないバスを待ちつつ
百歳の兄をことほぎおめでたう米寿の弟にお返しはなし
男子(だんご)四兄弟中の二人が欠けた現在(いま)長兄百歳末弟米寿
万歳をして敬老会終るわれらにも「明日」来ると信じつつ
秋空によろこびの声あぐるごと群がり咲ふ花コルチカム
祝ひにと友の賜物「蓬莱」の豚饅美味しひたすら美味し
菊造り久しく止めゐし同齢の友が咲かしむ黄菊大輪
夏まけの身をごろごろと届きたる短歌結社の歌誌も見てゐず
料理番組青菜涼しくしつらへど当方夏まけ何もいらない
歌友快復『踊れ喜べ幸ひなる魂よ』はげますやうにラジオささめく
幸せにひたりてをりぬビバルデイ『四季』秋の章華やかに顕つ
秋晴れの街に来たるよケーキ屋に家族の好む洋菓子を買ふ
秋麗の街に出て来て文庫版『蒼穹の昴』四冊を買ふ
左党にて菓子も好むは「雨風」と辞書にありたり何やら可笑し
小春日の街の茶房に観るテレビ「巨大カミツキガメを捕獲す」
名物の一品牡丹鍋を出す飯屋強北風(つよきたかぜ)に幟身もだえ
猪も熊も巷に下りてくる やがては人も飢ゑさまよふか
歌友(とも)垣よいのちをのばす玉ははきいざ言祝がむ猪口高く上げ

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