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2018年12月1日更新(72号)

百円バスで    馬宮 敏江

「しぐれ」とは寂しいひびき庭隅の色づき初めし千両濡らす
久久にランチしようと友の誘いよたよた三人(みたり)の梅田地下街
ともすれば消えゆきそうな歌のみち背を押し呉れる歌友の温もり
ピッと当て百円バスに乗るも馴れ小春日和を(みささぎ)めぐり
代休と云う月曜日の歯科医院 待合室に児童()らの賑わし
ディゴが咲き薄ら雲ひく青い空 また春が来た と思う霜月
還暦の()は母親の歳忘れ梅干し・らっきょ 欲しとの電話
頼られる内が花だよと友の云うそれも有りかと荷造りをする
ガラス戸の影くきやかに(ゆか)に写し雲の流れに照り翳りする
解散の結社の集いの(だけ)温泉白河の歌友(とも)如何に在すや
安達太良(あだたら)の山を遥かに歌碑の前 ひかる流れ・アレが阿武隈川
武蔵野の名残は今も深大寺 娘と歩む落葉のこみち
初咲きは息子・孫にと願う朝・長寿もたらすとう西王母の紅
在りし日の夫と訪ねし砥部の里ぐい呑み二つまだ捨てられず
まこと星のこぼれたさまに木犀の花散り果てて秋深みゆく
百余年耐えしを守りて母の実家(いえ) もうこれまでと解体決める
解体の音聞ゆなりふる里の母の明治がこわされてゆく
妹とままごと遊び・かくれんぼ・あの柿の木はどこ?更地となりて
只ひとつ名残りと持ち來し茶箪笥のお床の脇にどんと備わる
木犀の匂い流れて季節(とき)知りぬ地震・台風絶える間無くて
落葉掃く人の後より散り急ぐ欅並木のもみじ葉繁く
若き匂いどっと車内に流れ込む制服の群れ今日より二学期
ああ思い、かく思いつつ過ぎる日日重ねる歳にひかりも見えぬ
壁掛けの仏壇もありコンパクトに。人それぞれとつい口に出る
ピッチャーのめぐりに群れる赤とんぼ終盤近きマツダ球場
梅まつり、桜、紅葉とまつり過ぎ歳末商戦まつりの呼び声
ウイーンの森、旅のあかしの菩提樹ひと枝 押し花となり額におさまる
旱天をすでに小さき蕾持ち遣り水焦がれて待つ椿たち
公園へ亡夫(つま)といつもの散歩道ベンチの紅葉一人はさびしい
絶え間なき天変地異にいつの日か火星に移ろう方舟に乗り

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