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2018年9月1日更新(71号)

背割の桜    馬宮 敏江

野良猫のおしえてくれる風のみち 今日は白樫そよぎの根方に
紫陽花を擬宝珠を揺らす風のみち野良猫(のら)がスリスリして通り過ぐ
爪跡を残して昨日の豪雨過ぎ 何かあった?今朝の青空
朝食の窓に笹群風に揺れときに揚羽の横切りて去る
深夜2時灯りのともる窓いくつ空に半月花の金曜日
エニシダよ、ミモザの花よ、と道の辺のなだる黄の花決着つかず
朝夕のそこはかとなきそよ風に酷暑の中を秋と思えり
お中元ようやく終えしに朝刊はおせち料理の予約始めぬ
乗車率二百パーセントと新幹線盆休の熱気ふる里さして
アンパンマン列車に乗ると四歳が肩のリュックに夢ふくらませ
箸使いようやく覚えし悠太くん唐揚げ「どうぞ」と挟んで呉れぬ
ことごとに「知らない」「云わない」必死なる四歳曾孫の初反抗期
甲子園の空に白球舞い上る三塁セーフしなやかなる足
幸せにと願いのこもる姓名()を背負いバッターボックスに立つ球児たち
駅ごとにブーゲンビレア・さるすべり咲くも嬉しい各駅停車
男盛りの日々を思えば彼の人の小さき肩に声かけられず
今日の×(バツ) 「御座候」のほかほかを電車に忘れると日記の隅に
恋を知らぬ昭和生まれに眩しきは 壁どん、ハグと若き娘のうた
綿菓子手に茅の輪くぐりし遠き日の夏越の風の涼やかなりしを
ナース達の(せわ)しく飛び交う若き声すずろに楽しむ入院の床に
両の眼の手術終えたる朝々を鋭く返す若葉のひかり
深きおもい理解出来ねど住太夫に魅せられ通う文楽劇場
天を仰ぎ熱き語りに涙せし人間国宝住太夫逝く
三枚の葉書したためポストまで歩く十分今日の運動
ここだけの話がいつかひとり歩き人みな知りぬあの()の噂
怒涛のごと鹿の大群、飛火野にホルンひびきて春のおとずれ
さくら花いや美しく咲き盛れ友の病の癒ゆとう四月
人波に交じりて桜の背割(せわり)土堤 木津の流れの涯はおぼろに
「迷走地図」立ち上るとう良きたより外の面とよもす八月の蝉
ひとすじに歌を愛する二人の師追いかけつつも背中も見えぬ

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