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2017年9月1日更新(70号)

曾ジイバイバイ    馬宮 敏江

只一りん小さな庭を席巻すカイウは白き風を振りまく
おはようさん 週に一度のヤクルトさん今朝一番の会話の相手
高高と泰山木は花をかかげ学生集う大いなる影
朝10時凪ぎいし庭の動き出す青葉の風にコーヒータイム
絶え間なくスマホと遊ぶ()も孫も遠世の五穀の由来は知らず
コピー機に委ねし原稿程のよき温み含みてスルリ落ちくる
空梅雨を喜ぶもあり嘆くありふる里は今、田植えのさ中
「若葉の雨湯船に聞くが好き」と云う薄田泣菫(きゅうきん)真似たる女学生の日
語り部となりて伝えん息子()や孫に二人の伯父の南溟に散りしを
ひと枚の紙の位牌の二柱(ふたはしら)義母の震える背中忘れず
務めのごと一輪咲きし姫睡蓮はやも一年の睡りに入りぬ
干し柿を亡母と吊せる夢を見ぬ 今日は土用干しの梅を並べん
賑かにお帰り園児の傘の波そこ降る雨に虹のたつかと
歌会終えひとり家路の樹立より蟬いっせいのお帰りコール
孫を連れあんな日こんな日ありましたもう戻らない躍いた頃
卓上に直送チェリー…。岡山の桃 こんな時代が?昭和の吾に
「りゅうぐう」へ近づく「はやぶさ」一年後 見守る人らの夢のまなざし
被災地を思へば窓辺を吹き抜ける青葉風さえ申し訳なし
幾度を訪れ見上げし熊本城 言葉もあらず清正の城
宝物かかえるように女児を抱く救助隊員の腕のやさしさ
小山のごと一年中咲くブーゲンビリア高野線の車窓スポット
ふる里の唯一の水がめ早明浦(さめうら)ダム取水制限の気になるニュース
ひらりきて揚羽のみかんに生みつける卵を潰す朝イチの仕事
此岸より彼岸を繋ぐ橋かとも阿波、讃岐(あさん)の山に大き虹たつ
井伊直虎(なおとら)は間違いなく女です講師は言い切る熱き言葉に
桶狭間、川中島と熱を増す講師につられ歴女となるかも
車椅子、手をつなぐ人病廊に診察待つ間の心重たし
酷暑の中息子フランス、孫四国お土産期待の吾の留守番
高齢者外出控えのお達しに何を食べよう昨日も今日も
四代の家族寄りあい西の空「ヒイジイバイバイ」に送り火もえる

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