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2016年9月1日更新(66号)

送り火を焚く    馬宮 敏江

五月雨に阿波の山なみ靄いいて桐の紫なおおぼろなり
窓辺に差す鬼灯酷暑の陽を透しプリズムとなり色発散す
まこと慈雨 旱天の庭に雨の音飢えたるごとく吸う椿たち
紅に染む巻雲夕べの空に映えすでに気配す立秋七日
去年(こぞ)埋めしブラックチェリーの芽を出しぬ育ててみよう嫁に託して
蟹さんに麦藁ぼうしがよく似合う海水浴の空青かりし
赤毛つけまだ水ふくむ玉蜀黍『甘甘娘』友より届く
唐黍はもぎたてただちに煮るように 母の教えは今も忘れず
蛍とび蛙の鳴き声()のにおい故郷が呼ぶ六月の風
笹の枝に「世界平和」の短冊揺れ昨日も今日も梅雨ぐもる空
奢りこし白人凋落のきざしみゆ 孤高を伝えし先人の雄
三万年のルーツをたどる草の舟眩しくあおぐ夢追う人人
ヒロシマのオバマさんに涙して巨神戦をみる平和なる国
オバマ氏に寄り添う如く安倍総理日本人の優しさを見き
高野線の真っ赤な車体に六文銭「真田丸」発車九度山指して
子の闇に死を給わりし秀次の金剛峯寺の暗きその部屋
真田山。茶臼山も梅雨ぐもる大阪城へ一直線の道
鉢植えの蜜柑に卵を生む揚羽さなぎかみかんか二者選択の朝
蜜柑の葉に揚羽は卵を生み付ける子育てまかせて優雅に去りぬ
見上げればトネリコの花淡く揺れ朝雲ゆっくり流れるも見ゆ
ゴッチャ混ぜ丼「うまッ」と孫どもの若者ことば嘆く妹
()(さら)のお尻丸出しベランダに曾孫のプールに小さき虹たつ
蝋の灯も白檀の煙も直ぐ上る安らかならん今日のわたしも
おとろえし耳が勝手に音を拾う勝手つんぼと人は言えども
乾いたる木魚の音と僧の経 南無阿弥陀仏つい眠くなる
夾竹桃、ブーゲンビレア、デイゴの花揃い踏みして熱風あおる
大文字の時刻(とき)に合せて西の空また来年と送り火を焚く
ほんの少し涼しくなったと朝の窓風のささやき通りすぎゆく
難問のクイズの解けし瞬間を思わずコレダ!少しフレッシュに
朔に必着違えぬみちのくの便り待ちつつ月日のはやし

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