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2016年6月1日更新(65号)

雲はきらめく    鈴木 禮子

クリスマス‐ローズ犇めき裏庭の立木の裾に薔薇たらむとす
はなの色は淡きみどりに俯けり原生花園の王たり華麗
「昭和の西陽差す思ひす」と新聞のコラムに読めば泪ぐましも
山茱萸のあくまで深き黄のいろが寂れし庭にきりりと光る
アメリカの戦闘機(はす)に昇りゆき小松の空に残せし不穏
ルーツ辿りこころの旅を重ぬれば古き炬燵に花札の散る
北の国に火事多くして男らは金の佛檀先づ運ぶとぞ
酒焼けの(ぢい)のまなこを(おそ)れたり抱かれしことも更に覚えず
白山浦と言葉のみにて聞く地名吹雪に巻かれ佐渡も暮るると
路地ゆけばひかり零るる疎水ばたスズメノエンドウ莢小さくて
ひっそりと閉ざせる長屋恐らくは老いしあるじが口つぐみゐむ
「比良八荒」琵琶湖は荒れて寒からむ悲恋のしぶき千々に砕けて
秘密基地と子等の名づけし草っ原、荒くさ分けて陽の落つるまで
そうだった覚えていたわ草の名はアワダチソウといふ外来種
草ふかき空地もいつかかき消えてこころに馨る葛の花の香
ありなしの紅含みゐし「捩ぢり花」けさ通販のリストに見たり
北国は父母の産土(うぶすな)、白秋の詠ひし佐渡が夢に顕ちくる
かあさんが思ひ出さむと口ずさむ鉄道唱歌は二番でをはり
口ひびく(はじかみ)そへて()す朝餉めざめ切れざる目が開きたり
ツアーなどいつか途絶へて晩年や出合ひは小鳥はた庭の花
花桃の花をむしればすんすんと次の出番の新芽がきほふ
踏切りのサクラ咲き初めしらじらと模裾を曳きてあはれきらめく
行き惑ふ春凄まじき花吹雪一会のありて再びを見ず
紫より真白に変る「バンマツリ」息を吞むなり虚をば衝かれて
いまわれに課して励むは水仕事若たけ炊けば春(ふか)きかも
使はねば忘るる多き文字ありて日に幾たびか辞書をばひらく
身めぐりゆ減りたるものは靴の数 一・二足にて一年過ぎた
花に水、ネコに餌をやるはかなごと物の味のみまだ確かなり
しこたまに飯を食ったといふブログ息子は若くさもやありなむ
陸続と雲のこどもは煌めきて犇きあへり寫さむに消ゆ

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