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2016年6月1日更新(65号)

恋してた頃    中尾 環

アー嬉し()()()で褒められ昂奮し眠れぬ夜よ風の音聞く
前を行く素敵な先輩目指しつつ日々の精進怠らず生く
ナツメロを聴きつつ短歌(うた)をつくりおり至福の時間外は冷雨よ
立春のひかりは窓にとどけどもフリース重ね味噌汁啜る
いそいそとペダル踏み込み短歌会(うたかい)へ仲間に会える花冷えの朝
開きかけ花冷えにギュッと花縮む雪洞揺れる桜の並木
満開の桜を余所に家飲みす(はな)は見えねど話に花咲く
アスファルトの道一面を薄紅の絨毯にする花散らし雨
桜散り春本番と思いしが体にこたえし気温の上下
ペダル踏む我の目の前ひらひらと初蝶二つ案内役す
北海道新幹線の開通に鉄ちゃん達は心躍らせ
古民家を利用の和風レストランいつものメンバー少し気取りて
娘らが「(うち)のご飯は柔らか過ぎ」不意に言い出し悔いたるあの日
花々の色引き立てしキラキラの光のなかをペダルも弾む
吾が編みしマフラーはずさず嬉しげに汗を拭き拭き鍋つつく君
約束を二時間過ぎても待っていた「ゴメン!」と息を切らせ来た彼
元彼の低温ボイスの「おやすみ」にグッときていた受話器を握り
忍ぶれど二人の仲の色に出て茶話会の司会押し付けられぬ
笑顔待ついつもの駅へ駆けつける躍る胸押さえ目と目の合図
何気なき言葉で人の傷付きてまさか・そんなの、恨み買いたり
同じ時代(とき)過ごした友らと声合わせ体揺らせて歌うナツメロ
考えても切りのないことばかりだが何はともあれコーヒー飲もう
はったい粉に砂糖と麦茶掛けただけそんなおやつが嬉しかった頃
潤滑油 ? 嘘も方便と言うけれどそんな悲しい嘘付かないで
「あなたですか?いい匂い」言われさらりと洗剤自慢
金沢のガラス張りなる美術館古都に光りし近代建築
段々と妣の写真に似てきおり我の目元に(ぬか)の生え際
大好きなドラマの続き思いつつ焼酎ロック一人飲みおり
乳母車つづいて近づく車椅子時の流れの儚さ想う
スポーツ界揺るがす多くの不祥事よ夢砕かれしファンこそ哀れ

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