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2015年12月1日更新(63号)

秋の月    中尾 環

空の藍稲の黄金に紅添えし畔一面に曼珠沙華の帯
一望の棚田色どる彼岸花手折り帰りて家じゅうに活ける
クリスマス‐ケーキ予約の散らし有り九月半ばのスーパーの棚
朝夕に秋を感じてお洒落してやがて後悔玉の汗かく
雀らに一粒の米もやるまいぞ ダボシャツを着た案山子が睨む
夕食にパンや御飯は要りません麦とお米のジュースで充分
健康のため運動と食べ物にこだわるも今日の日付は忘れ
乗客のほとんどスマホいじりおり杖つく年寄り前に立ちても
朝からの雨に癒されゆっくりと一日過ごすもたまの贅沢
運動と入浴終えて帰り道火照りし頬に秋風の吹く
四時間の秋の夜長をラブ‐ソング集あの頃想いテレビと合唱
老人と老犬トボトボ歩きおり釣瓶落としの夕日を背なに
コーラスの発表会の会場でみんなで歌う〈翼を下さい〉
泳ぎつつ見えし絵のごと鱗雲我も鱗と尾鰭が欲しい
玄関を出た瞬間に匂い来て思わず在りか探す木犀
マネキンの着ている服に一目惚れそのまま買い取りマフラーを編む
毎日の四駅十分乗る電車短歌作りの宝の時間
良き本に出会い時間も忘れ去り心癒やされ虫の音しみる
友からのまだ温かき煮物には具とやさしさのゴロゴロとあり
真夜中に窓叩く風に驚きぬニュースで納得木枯し一号
我と共に色々な国に旅をした紫のカバン今物置の隅
人間の力及ばぬ大水害病みし地球の明日をも知れず
ふと目覚め夜中に付けしラジオから懐かしい曲流れ涙す
リハビリを終えて帰りの道すがら満月に癒され痛み忘れる
窓越しの満月肴に一人酒今宵の燗は少し熱めで
ワーッすごい!!圧倒的なる存在に思わず声出るスーパームーン
稲刈りを終えたる畑にモクモクと籾焼く煙天に向かいて
線路沿い黄ばみし銀杏に驚きぬ二日見ぬ間の変化の速さよ
秋淋しと思う間もなき毎日をビール飲みつつガクンッと居眠り
〈大安〉で〈スーパームーン〉の日に結婚 福山雅治におんなの悲鳴

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