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2015年12月1日更新(63号)

なら坂の秋    馬宮 敏江

夕風に白き波うつ秋明菊更地となりて買手無きまま
一年中満開に咲くブーゲンビリア花時忘れ!紅のあわれさ
今日の風木枯し一号と報じをり大阪マラソン十万のスタート
飛び立つまで待ってやろう 青虫に夏柑の葉は筋ばかりとなる
朝八時四人目のベルに受話器取る皆無の日ありこんな日もあり
就活の黒いスーツに装いし()は車中にもパソコンを打つ
息子()らの後誘われしまま般若寺へ小春日和の平城坂をゆく
秋海棠・水引草に彼岸花小さきみ寺にいっぱいの秋
般若寺のコスモス揺れて石仏たち笑っておわす怒っておわす
親王を匿い護りし般若櫃小暗き堂宇に秋陽ひとすじ
散り急ぐ駅前通りの花みずき三枚五枚九月半ばを
野の道を練るだんじりのなつかしき提灯揺れて祭りの夜は
待合室の空切りとった秋の窓プラタナス揺れ赤とんぼとぶ
彼岸まえ日々冷たさの増す(あした)枝垂れる萩を散らす長雨
思い切って自転車更に購い替えぬ 何時まで乗るの 声を後目に
母より吾、吾より娘へとつがれいるふっと飛び出すふるさと訛り
小さき手を上げて期待のハイタッチ バイバイ覚えぬ十月(とつき)のひ孫
天下る天使にあるかひ孫おり吾が家のルール乱れっ放し
大の字に熟睡(うまい)する児の枕辺にそっとささやく秋風のあり
嬉しさと寂しさ共に置き去りに男孫の伴侶と巣立つ日近し
ベッドより踏み出す朝の第一歩たしかなる足のしあわせ思う
西空に淡き残月朝の窓雀の群れて初冬賑わう
トライ決めし小さい国のチュニジア戦 日本頑張れチュニジア頑張れ
菊花賞由緒ただしき名馬たちやる気満々レンズは捕う
新年会二百人のジャンケンポン最後に残る人おそろしき
吾が意見無条件に受けくるる若き友とのいとしき歌会
餅を搗く兎はどこに行ったやら今宵の月をスーパームーン
阿蘇噴火、鬼怒川氾濫絶え間なしせめてこの星すこやかなれと
もたつくと「お金入れて下さい」繰り返すロビーの隅に立つ支払機
学生のデモの掲げるプラカード凡て横文字ワタシは読めぬ

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