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2015年9月1日更新(62号)

母の写真    中尾 環

塀越しに星と見紛う額紫陽花梅雨ぐもる庭にそこだけ光る
早朝の眠りを覚ます大雨にやはりと思える今日の梅雨入り
電車・バス乗り継ぎゆりの舞洲(まいしま)へ病む足騙し一人吟行
梅雨晴れの空と海とによく似合う色とりどりの舞洲のゆり
澄みし目で「なんで?どうして?」と問う吾子に笑いこらえて答えしあの頃
亡き母の味懐かしい茄子炒め次第に遠のく記憶をたどる
イケメンの写真飾りてこんな息子()を産みたしと思えど娘三人
韓流のドラマにはまり夜を更かし明けの雷雨も知らず爆睡
この言葉口がさけても言いたくないでも実感してる〝もう歳かなあ〟
飲み友とビール片手に夜更けまで語れど尽きぬ生き来し日々よ
独り身の我に料理を携えて来し友仏の化身に見えし
新しき水着にこころはなやぎていつにも増して張り切り泳ぐ
盆休みプールも休館泳げないわたしは丘の河童に似たり
叶うなら笑顔を夢で見せて欲し彼岸の母の帰り来し盆
たどり着き縄文杉を見上げつつ一気に飲みたるコーヒーの味
友と居て弱音吐いたり笑ったりいつもと同じ何気ない日々
戦争を知らない子として生まれ来し我がなすべき事考える現在(いま)
「ほらあの人 エエッートほら」「うんわかる」これで通じる不思議な会話
コーヒーを前にドキドキした頃の壁ドンの君今なつかしき
あこがれの人から声を掛けられたあの日ドキドキ半世紀経つも
医者はすぐ加齢のせいと言うけれど〈カレー〉はインドだけにして欲し
独り居る我の居場所の目の先に写真の母は静かに微笑む
すっ転び何でもないよな顔をしてすたこらさっさ痛さはあとから
体温を上まわる程の日が続き子等の遊びの姿も見えず
数々の分岐点にて選び来し我の人生これもまた良し
ふと気付くガラスに写りしわが姿急ぎ髪なで背筋を伸ばす
肉球を嗅ぐと香ばしいにおいした今亡き愛犬名前はペー助
圭・結弦どう育てたらああなるの?私も母よ苦労は同じ
幸せをこの手でたくさんつかむぞと最近(いま)の赤子は手を開きおり
ジジ・ババが毎日元気に散歩する平和で長生き健康ニッポン

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