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2015年9月1日更新(62号)

夕茜空    馬宮 敏江

明けきらぬ梅雨の晴れ間のえごの花万の小花に滴のひかる
梅雨の中今日は歩いてスーパーへ泰山木咲く清らなる道
家内にらっきょ・梅の香充満す変らぬ今年の行事を終えぬ
十年忌読経の奥にほほ笑める歳をとらない夫の写真
盂蘭盆のご先祖さまの茄子の牛型良く仕上げ迎え火を焚く
この墓へ入りますと墓碑を洗う嫁の言葉と今日の青空
送り火の煙ゆらゆら ご先祖さま今宵黄金の西の空です
水張田の蛙の合唱・()のにおい猫の手借りたきふる里ならん
「お蚕さん」と()でて育てる蚕の部屋に大雨(だいう)のごとき夜桑食むおと
透き通る頭もたげて絹を吐くやがて真っ白の繭にこもれり
昨夜の風快き眠りに入りおれど11号上陸のニュース
明朝は暴風圏と報じおり不気味な静寂一人の闇の夜
大和川幾曲りして海に入る川口の涯の夕茜空
窓を染める夕陽に誘われ外に出るボール遊びの子も茜色
少年は夕焼空が好きと言う茜の向うに明日があるから
西の窓にそこはかとなき風動き炎暑のひと日の朝のやすらぎ
灼熱のひと日を耐えしご褒美のような真っ赤の夕日に出合う
今日三度 おそれいります と礼を言う乗り継ぐ電車に席を譲られ
郵便受けのいつも(から)は寂しくて返事期待の友へ文書く
突然に窓辺のコップに陽の射して切子は虹の色を放射す
三年経て花芽を持たぬ姫水蓮不満にこたえ一花を開く
移植せよ、挿し木は今と教えくれし植木の師の友逝きて一年
昼めしを今はランチというらしき孫のランチはコンビニおにぎり
句のありき「つるべ取られて貰い水」つるべって何と聞く孫の居り
コンビニのレジの笑わぬ女の()言葉交さず買物終えぬ
足元で一首を拾へと師の訓えふと思い出す迷路に入りて
一年が三ヶ月だよ 師の言葉いつしか身に沁む齢となりぬ
子らの待つ実家(さと)へとバスに乗りし(ひと)「雨女」ですと小雨の中を
豊饒の長き世に馴れ足るを知らぬ食べて踊って尚足りぬもの
次世代へ謝罪残すな その言葉、ずっと待ってた総理の言葉

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