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2014年12月1日更新(59号)

花芯に入らむ    鈴木 禮子

名月は乱視の視野に乱れをり チチロと小さく蟲も鳴き出づ
ちちのみの父見せくれし月面の、水に漬かりしやうな黄蘗色(キハダ)
望遠鏡で望む月面ぬれぬれと、をさな心の感受のままに
幼日を思ひおこせば六つ余り父が秘蔵の子でありしかな
明けやらぬ初夏はみどりの東山 手を繋ぎゆく子安(こやす)のやしろ
愛されし記憶は老いし今に知るふたごころなき子への溺愛
父がこと思へば笑ひふとも噛む一途なりしか為すことすべて
末の子と()れて切なく欲りたるは羽織に光る白き染紋
紋ならば紙にてもよし思ひ詰め白き五つ紋背にぞ貼りける
ずつこけし話なりしが明治にて二宮尊徳あがめゐしころ
子らがみな幼き日日はくれなゐに今黄昏の残光のなか
波風のたたぬ一世と言ふべかり暮れなづむ日の黄なるコスモス
ゆらゆらと黄花コスモス陽を仰ぎ艶なる風情あれは相聞
霜月の門の明りに輝きてこころを揺らすキバナコスモス
コスモスにキバナと(かむり)載せたれどコスモス族の仲間なるのみ
茎はみな木質化して逞しくキバナコスモスの千のはなびら
メキシコ産、硫黄色せる花ゆゑに名付けしものかキバナコスモス
ながながと住みたる山城盆地ゆゑ天地鳴動のきびしさも無し
颱風はすでに東へとほりぬけ碧天徐々に空満たしゆく
半円形の虚空に白き綿雲のやや左へと寄りて翳らふ
ゆきて負ふ苦役の果てのエラブカを夫は二度とは語らざりしか
息凍る冬のエラブカ俘虜なれば飢餓とやまひと僚友の死と
「あの時はよくも悪しくも青春で…」同期の会も老い深かりき
季の流れ花ばなに問ふ昨日今日地温じわじわと上昇志向
真夏日を好む草かもカラス瓜今年七個が初めてさがる
わが庭を熱帯風に変へむかもサボテン・ゴーラム水を欲せず
目に映る花と季節が嚙み合はず人は体調を崩しけるかも
写真家の捉へむとせし沈黙をわがパソコンの壁紙とする
歌詠むに気合なしには始まらぬ一点集中花芯に入らむ
捉へたる短歌(うた)の芯なる如きもの人言はば言へ埃うたとも
揺ぎなき強さと言はむ四つに組む白鵬の()にさつと差す紅

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