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2014年12月1日更新(59号)

馬関の海に    馬宮 敏江

金色の銀杏舞い散る御堂筋こがらし一号とどきしニュース
己が生えの藪蘭咲きぬひかえめに薄紫を樫のこかげに
すだれ揺れ風のいつしか冷え冷えと残り蚊一匹ふうわりと飛ぶ
返り咲く鉄線の藍二つ三つそっと濡らして降る初しぐれ
風知草・トネリコ揺れる朝の風 秋ですね 会う人ごとに
あれこれと気遣いくるる息子夫婦甘えのこころ少し寂しむ
亡き友の会いに来しかと肥後すみれ形見の花を咲く寒の中
舞い込みしエレベーターの散り紅葉秋を道づれ三番ホームへ
退社時すぎわたし一人のエレベーター指一本で上がってきたり
鈴なりに実る空家の富有柿夕べ差す陽のひときわ朱し
更地となりまして静かな片隅に秋明菊揺れ秋果てんとす
息子()の生れし日はコスモスの花盛り定年近き今年も満開
昨夜見た?朱い月の消えゆくを国中おなじ空を見ていた
口癖となりし「よいしょ」の一言も「ヨッシャー」の若者と同じとおもう
ハトロン紙50円の文具屋さんお気を付けてと見送りくれる
半分は聴きとれぬまま講座終え帰りの空に満月かすむ
お茶を供え膏薬肩に、目薬さしシニアの朝は忙しきかな
息子()の孫の日日の勤めは分からねど遅き帰りを門燈の迎える
群雲を押し分け出でし中秋の満月見上げる人の幾人
毎朝をくまなく掃かれし桜並木紅葉散り敷く舗道も良きに
誇り高き「長州人(ちょうしゅうびと)」と語り合う明治維新の生きている町
壇ノ浦に真向いて建つ幼帝の宮は朱の色竜宮のさまに
知盛も武蔵も遠き夢の跡馬関の海にタンカー行き交う
七卿を匿いし宿松田屋の名に負う赤松庭園を圧す
「長州は良い塔を持っている*」時雨にけぶり建つ瑠璃光寺
八人の総理大臣を出しました 誇るガイドと握手で別る
半年を経て消さねばならぬ亡き友の携帯電話もアドレス帳も
撫でながら今業平か松潤か出産近き孫は夢見る
秘すれば花、言わぬが花の習いとて言わねば残る無念もありぬ
住大夫を継ぎて語れる咲大夫凛とひびきぬ「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)

*司馬遼太郎「街道をゆく」より
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