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2014年9月1日更新(58号)

友のゐる海    鈴木 禮子

藪蚊バリア存分に撒き丈たかき夏の雑草根深きを抜く
花の名はイスタンブール碧眼の()の風情して異国より来し
めらめらともゆる天空に呼応する一番花の紅蜀葵(コウショッキ)()
野べの花「もぢずり」いつか貴種となるその故由は何であらうか
交配をかさねて咲ける花よりも原種の花の一点の紅
くちなしが夜目にも白しと言ひしひと彼の面影も想ひいだせず
「生かされて言ふべきでなき身の不調」詠ひて逝きし友のゐる海
一冊の歌集となりて味の出し短歌まぶしくて申し訳なし
滑らせて割りてしまひし大皿の仔細もすべて歌とし光る
天命をしづかに受容したるひと沖縄といふ受難の島に
あら、三毛の子が通り過ぐ猫のかげ絶えて久しき町であつたが
新入りの命は煌めくひとみしてつと立ち止り徐にゆく
換毛の時は来りて猫毛舞ふ止むことの無きテロルかこれは
午前四時猫の遊びの時間にて夜行のネコに友達をらず
ガリガリに痩せたる野良が立ち止り振りむき又も見返りてゆく
ネコの不幸かなしみたれど諦めぬ全ての猫をわが助け得ず
靴箱の上でぐったり溶けたやう眠りふけをり真夏の猫は
目が合ひし途端に吾の脇にくるモノ言はねども猫の情動
鼻づらで人を擦れるネコの性、愛の仕草と思ひをりしが
見残せる夢の凡そは果敢なくてわが為残せる仕事いくばく
青春は常に苦しく壮年はただせわしくて晩年眠し
蟬が鳴く 身を尽してぞ蟬が鳴く夏の忌日は天日(てんじつ)燃えて
落ち蟬の羽掻きあがける様なれやわれ立つを得ず日がな一日
負けたるは首垂れて去る甲子園たかが野球ぞされども野球
「ご冥福を祈る」とのみに済まされず泥土は人を一吞みにせり
人よりも不安困憊の瞳せり泥にまみれて被災地の犬
秋霖の七日続きて潤へば土割りて蔓の細きが走る
するすると蔓を延ばして烏瓜縦横無尽のその走りやう
煙めくましろき花は網に似て師走尽日朱の瓜となれ
からす瓜の変容ふとも愉しめばいつか彼岸を招くさば雲

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