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2014年9月1日更新(58号)

ほたるの里    馬宮 敏江

とどまりて地域おこしの若者たちとべとべ光れほたるの里に
「お久し振り」迎えの友とハイタッチこれより向う蛍舞う里
送迎車によたよた乗り込む10余人バスのボディに「若人の里」
緑こき山路を上るバスの窓むかしのままに木洩れ陽ゆれる
闇の中はかない軌跡を曳きながら恋をもとめて蛍とび交う
来年の再会などは定めなき今日のひと日を足りて別れる
チ、チ、チ、チと巣箱に山雀、四十雀、百鳥巣立つと店のオーナー
餌台に置かれし水場に何鳥か無防備の構えに水浴びをする
一瞬の夕立過ぎて生駒嶺に入道雲の()銀にかがやく
今日ひと日しのぎ易き暑さなれど故郷豪雨のニュースの続く
師とおもいし歌友(とも)相つぎてみまかりぬ埋める術なきうつろなる日々
炎暑なれど枯らせてならぬ「肥後すみれ」逝きたる友の形見にあれば
くったく無いあなたの笑いが好きでしたも一度二人の旅に行きたい
軒を越え伸びたる隣の細竹が遂に切られぬ昨日夕ぐれ
少しづつ怠惰となりて掛軸の八ッ橋のまま七月の床に
草刈りを終えてひと本残したるひめじおんの花揺らす夕風
三十七度我慢も限界封印のエアコン唸らせ 原発反対?
チチと鳴く雀の声にも窓を開ける鵯のかげさえ見えぬ此の頃
通り雨過ぎて散らせるのおぜんの朱にほのかな秋の匂いす
戌の日を腹帯巻いてⅤサイン勇姿の写メール孫より届く
拉致されてどうにもならぬ三十余年横田夫妻の小さくなりぬ
めぐみさんと抱き合う夫妻を目にしたき何時の日ならん茫洋の日々
黙黙と特攻隊の鉢巻を縫いし教室只黙黙と
校舎の空旋回をして消えてゆく機影に涙で手を振りし幾度
さわあれどひたすら生きし青春の日々今もかなしき予科練のうた
大正ロマン、平成の代のはざ間を生き重き昭和を抱きて終えん
九十歳のお洒落忘れぬ友のため花柄ベスト縫い上げました
群れくる蟻斥候あらば伝うべしこのキッチンは難攻不落と
一寸の乱れなき束の古新聞住む人偲ばる門前過ぎつつ
叙景より生活詠のあふれいて人それぞれのくらしを伝う

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