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2014年3月1日更新(56号)

プロテアの花を    鈴木 禮子

師走五日アフリカの父の葬儀あり他人種多く集ひたりとぞ
アパルトヘイト撤回へ向け起ちたりし南アの父のその厚き腕
満寺(マンデラ)】を(おくりな)として捧げなむ薄くれなゐのプロテア添へて ((プロテアは南アの国花))
ちから失せ活力消えて極月や荷風先生食す鴨南蛮(みそかそば)
溺れゆく気合及ばず文人の荷風先生のやうにはゆかぬ
「好きこそはものの上手」と宣へど度合が違ふ好きの度合が
百歳で逝きたまひたる義姉(あね)の貌おもひ見がたし三十年(みそとせ)が過ぐ
この日頃世過ぎのわざの拙くて彗星ひくく散りしを知らず
玄冬の寒さ払ひて咲くものか素心蠟梅透き徹りたり
そのむかし友が給びにし蠟梅の凍れるさまの花のすがしさ
生き死にのこと知らねども草莽の友はあらかた世には在さぬ
鴨東にひさしく棲みて歳老いぬ川の媼と名乗るもよきか
万葉の歌枕()め行きしかな 三輪山、飛鳥さらには阿騎野
二上の寂しき墓に差す秋陽やうやくに来て立ちしことなど
落雷に火事は火を見しはじめにて畏れ斎きぬ神話のむかし
いちばんによき日なりしか初老にて終着駅はまだ遠かりし
書肆の名を甲鳥書林と呼べるあり幻のごと沈みゆくかな
ゆきずりに公民館がまだ残り老いし一人が草を抜きゐる
国挙げていくさにのめり込みし日の天壌無窮と()りし石碑(いしぶみ)
ささやかな猫の額の門先の崩えし石碑もなかば埋もれて
『出征』の赤き襷と日の丸が今も目に見ゆ『征』とは何ぞ
かすかにもまた聞えくる戦時歌謡(はやりうた)おと底ごもる短調の唄
尾根越えて飛びたちゆきし杜鵑再びを来ず冬深みかも
むつくりと首もたげたり玄冬のクリマスローズ寒気がお好き
「今回もまだ出せます」と笑ひあふ『迷走地図』も56号
かにかくに人の重ぬる老いの日日木の芽日増しに膨らみを増す
何とまァ可愛いい顔して結弦(ゆずる)クン四回転跳ぶ錐のごとくに
勇み立ち勝たむとすれば喰はるると競技の世界に棲む魔物あり
一つこと追ひつめて得しほほえみを胸あつくして吾は観てをり
冬の祭典ソチは凍りて輝けり金メダル欲しと密やかな声

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