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2013年12月1日更新(55号)

高野のみち    馬宮 敏江

野の道を並ぶだんじり遠囃子矢張り恋おしき秋風立てば
あの頃は母が庭で秋刀魚焼き猫も片辺でまっていました
ふる里の友より届く栗、すだち 春夫となりて今宵秋刀魚を
早ばやと賀状の予約をと手渡さる九月三日郵便局に
あの家も寝られぬ人のいるらしき ぼんやり灯りの吾が家とふたつ
今朝は雨 篭りて無聊をとなり家の犬との会話「ハッピーおはよう」
突風に帽子あおられ車道へと避けつつ車の走りて呉るる
反正陵巡るは程よき散歩道 杜より洩れくる鳥の声ごえ
陪塚の樹立は雀の宿となり夕べ鳴き合う声かしましき
容赦なく息子()は木犀を刈り落す十日先には花咲くものを
無口なる息子の手首に巻く時計亡夫(つま)愛用の古型なれど
息子と嫁と富士の嶺見んと出でし旅昨日も今日も雨降りつづく
今頃は八ケ岳か蓼科か せめて晴れ間のあれと願いぬ
さんざめく夜の街をゆく二人連れみれば男孫(まご)にも想う人あれと
あまりにも見事な朱に拾い上ぐ散り敷く紅葉の中のひと片
黄に朱に全山紅葉小春陽は密教の地をあまねく照らす
家康も三成、秀吉隣り合い巨大な五輪に深き苔生す
親藩も外様もいまはあらばこそ()べて紅葉の奥の院参道
暑中見舞い届くは整骨、歯科医院炎暑の日日を乗り越されよと
明けやらぬ竜神の宿は霧の中 枕にとどく日高の川()
手を振りて見守り呉れる駅員の温もりまとい高野を下る
寒波のなかポインセチヤ、シクラメン春呼ぶかたちに花舗(はなや)に並ぶ
鳥の影つっとよぎりし朝の窓見上げる空にいっぱいの秋
今の年をさきがけて咲く白玉椿冬ざれの庭に凛と一輪
ただ一輪咲く白玉に容赦なき霰は機銃掃射のさまに
ゴキブリが買物篭より飛び出して車道にすっと歩いていったが
へその痕まだかたまらぬ嬰児(みどりご)の手足押し上ぐ大き青空
何となく電話をしたくなるような只それ程の友でありたし
屈託ないあなたの笑顔に出合いたい病む日日にある友にも一度
ささやかな内緒話のような会五人寄り来て歌会はなやぐ

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