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2010年9月1日更新(42号)

朝な夕なに    馬宮 敏江

青空に誘われペダル踏みてゆく沙羅の蕾のふくらむもみん
河内野に早苗田整い涯とおく二上山のくきやかに映ゆ
立ち並ぶマンションの間の一瞬を雄岳雌岳の車窓に過ぎる
斎場は七月の風 アガパンサス・黄百合寂しい花の満開
お互いに主張を持たず縺れ合い擬宝珠青花はんなりと咲く
そっくりに歩み来る人亡き友か思わず欅の道に佇む
カーテンを透かして揚羽の舞の見ゆ申し訳なき花の無き庭
余剰の葉とおもい切りたる君子蘭なみだか傷に液のしたたる
この暑さひと雨の欲し遠雷に昼寝の猫の耳がピクピク
「お久しぶり」雨の中の立話 投票場に少し楽しむ
夫あらば教えて欲しきこと数々連立、廃案、みじか夜の夢
口を開け車中に眠るサラリーマンしっかり握る携帯電話
あかあかと夜半まで灯のつく家々に今宵大事の金曜日の夜
「宅急便です」急いで開けたる炎暑の中笑顔よろしき若者の立つ
手摺りなど無用と言いしは何時ならん今は頼りの朝な夕なに
この山の向うは紀ノ國山合いに友とひと夜のあじさい咲く宿
「行ける間に」言い訳として花めぐり温泉めぐりささやかな贅
陽の落ちて窓に流れる涼風に夕餉のかおりこもごも添えて
ぬれぬれと雌蘂を伸すカサブランカ、あやしく光る蜜したたらせ
下校時を友と遊びし四ッ葉探し「アメリカの遊びだよ」と言われたむかし
たっぷりと故郷をみて目の覚めぬ幼き日の友古き教室
庭木の影日増しに伸びきて猛暑にもそこはかと無き秋しのび寄る
木槿咲き芙蓉の花揺れ深として小学校は夏休みに入る
少女らと共に奏せし『千鳥の曲』あの子もこの子も母となりたり
消えんとしてまた燃え上る蠟の火に夫の終の日顕つ盂蘭盆会
乞われしまま梅干し、らっきょう漬け込みぬ親の齢を娘は忘れおり
土用干しの梅に樹々の影ゆらぎ今年の梅も上上の出来
心臓が肺がパックで運ばれる生々しきをテレビは映す
ユンボーが庇を咥えて引きくずす集合住宅埃舞い上ぐ

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