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2010年6月1日更新(41号)

サンヤレまつり    鈴木 禮子

あれはなに、あれは彼岸の狐花みな若くして露踏みてゐき
元服を祝ふしるしと聞き及ぶ賀茂に伝ふる 幸在 ( サンヤレ ) まつり
十五年経ち成人となれる日を「あがり」と呼ぶかサンヤレまつり
元服の日より大人に数へられ一人前とはきびしき言葉
夜衾 ( よぶすま ) を被りて聞きしサンヤレの囃し唄なり遠く響めく
鉦・太鼓、厳寒の夜に聞えくる「おんめでたうござる」と風のまにまに
サンヤレを祝ひ囃して生きし 時代 ( ) に祈りのありと猫がまばたく
集落のサンヤレ祭りの振舞の餅つきの火が火をよびしこと
「田舎よね、ここは」と若き母の言ひサンヤレの鉦通り過ぎしか
ちちははを偲べばわれは子供にて晴れ着きてゐるさくらの径に
パソコンの壁紙となしハレの日の花鳥風月をほのぼのと見る
うつそみの人なる吾は立ちどまる傾きてゆく秋のさかみち
短歌 ( うた ) の友はうたに溺るるひとがよし温め合へば自づ熟れゆく
こころ集めうた詠むよるは身も熱く残る火種に風の入りしか
息子らが万感胸に帰国するさらば英国みどり濃き国
王城の鎮護の樹とぞ大公孫樹いのち継ぎきて黄は天を突く
放射状に延びゆく街も碁盤目に鎮もる街も秋ふかくして
コピー機の熱もちくればすかさずに上り眠れる猫の知る価値
短病葉 ( わくらば ) を日すがら攫ひ木枯しの過ぐれば潔し空のコバルト
ガタゴトと屋根を叩きて戸をゆする風あり立冬を告げゆく童子
ひっそりと寄り添ひてゐし 花鳥 ( くわてう ) の日褪せるなよその色もかほりも
売りものにならねばといひくだされぬ薹たつ前の小さき 花野菜 ( たまな )
キンカンの色づきたれば ( ひよどり ) を防がむとして網張るわれは
老いたれば暮しはいよよ単純に身の程を知るといふこともよし
われや先人や先かと極月の喪中ハガキがてのひらに在り
秩父一揆の死者鎮魂の巡礼に出でたる人もまた斃れしか
彼岸花ふたすぢ連ね国東は田深と呼べりきみが住む里
臈たけし美和子先生と人の呼び「くにさきの園」冬に入りゆく
歌碑六基、句碑、詩碑建つる心意気 わが卑弥呼とも筑紫の国の
北国に雪ン子降るといふハガキ寒慎ましく友住む街よ

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