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2009年12月1日更新(39号)

メタモルフォーゼ    月山 幽子

しょうゆのしみ血痕のごとくしてサスペンスめく灰色の日々
金平糖舌にころがすそとからは平和と見ゆる火宅の椅子に
ナナカマドカマトトアナの舌の音汚れてひびくスイッチオフだ
伸び爪で先づかきむしる冬色をすべてのものが冬の面つけ
鋭きナイフバッグの底にかくしつつなべてを切らむ幻のなか
春のため熟れた眠りのさくらばな借ものならぬものの営み
曇り日のもの影やさしき部屋にゐて冬の塩ふる清しきひびき
唐突に根尾の水音きこえくる理科のできざる脳のなかに
淫らなる字草書にすれば毒っけのうすまりてゆく弱き胃の腑に
太刀魚の銀色の皮にせ真珠首につるせる黒衣のをみなら
IQの低き個性に冴えてゆく皮膚のカンカクそよかぜ痛し
IQの低き個性がいちはやく法師蝉きく里山の夏
木犀の鋭き輝きの宙の底のうぜんかづら黙々と散り
漆黒の底で木犀凛として星のコドクに入る隙もなし
蓮根は恋慕の惟ひで食めばよしかかる暴言だれがたらせる
ホットネット二度口にしたあとにきた空白感にドンドコさわぐ
ヴィールスをたっぷりうつした快感に卑しき喜びかみしめゐるは
嘘入れて楽しき会話をなすべしや無能のなせる大真面目の顔
殺人をしてなしてみたき夜の底でラセン階段地下へと続く
デスマスクにそへゆく花は黄のバラで浪漫的はあきあきとして
銀河をば泳いだ如く涼しいと盗作もどきの罪のたわむれ
地面からさかさに足が天を指し逆転遊びもマンネリ化して
膀胱も胃袋さへも吐き出する朝の兆事に粉雪の舞ふ
擦過傷ちんば引き引き絶対に許さぬことを生甲斐として
ワンランク望みし者のなれの果身の程知らぬ地獄に落ちる
脱糞のさま思ひつつ呼吸するああ白々と荒野の続く
にんじんは挑発的な色でなし炎の中に静かにゆるる
黒砂糖筋力もてる甘味にて煮物にいれると粗材を壊す
菜の花の匂ひにむせる紋黄蝶われにもありぬそのDNA
一握の塩をなめたき欲求は自虐の(さが)のメタモルフォーゼ

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