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2009年12月1日更新(39号)

みささぎの杜    馬宮 敏江

反正陵めぐりて程よき散歩道杜よりとどく鳥鳥の声
晩秋の陽を背に下る初霜坂みささぎの杜の深きざわめき
風の森 に立ちて古代の風をきく大台ケ原の雪の峯とおく
風なきに瓔珞ゆれてなまめける法華寺み堂の菩薩立像
今もなお鄙びし里の恭仁京跡礎石をめぐり咲く曼珠沙華
われは(うみ)の子 万葉の亡師()の愛唱歌口ずさみゆく湖辺(うみべ)のこみち
一陣の冷たき風に目覚めたりそろり寄る秋あすより九月
少しずつ秋めく夜はいつしかに縮羅の夜具をまといていたり
日は東月あわあわと西の空秋の彼岸のややに近づく
窓の灯り消えて幾月となり()の嫗はホームに入りたりときく
ビルの間の燃える夕陽に出会いたり西へ誘う光とおもう
日短かに深く射し込む朝の陽のレンジの汚れくまなく暴く
刑務所の塀沿いの道スーパーへ桜もみじの並木は飽きず
あの人に市場に行けば会えるかも無性にお喋りしたき日のあり
たそがれのチャイム重たく沈みいてテニスコートに降る初時雨
夏枯れにあきらめいたる玉すだれポッコリ白き蕾ふくらむ
無住なれば張りめぐらせる蜘蛛の巣を払いつつ入るふる里の家
家とともに老い木となりし木犀の精いっぱいの匂いをこぼす
鶏頭の竜胆の青咲き揃うむかしむかしのままごとの庭
夕されば一人の部屋に流れくる戸戸の夕餉の匂いの温くて
樫、椿彩のなき裏庭にうら成りのトマトひとつ色づく
この風に並木の欅散り果てん木枯し一号吹き荒れる午後
灯明と共に這い出すたな蜘蛛を掃除機一瞬にたべてしまいぬ
冷蔵庫日頃空なる野菜入れ今日は満タン菊葉大根
ハイエナの通りしあとか菓子の山消えて手を振り帰る孫達
「如何ですか」「まあまあです」と返りくる住みなれし町の挨拶となり
スーパーの往き来に出会う長ばなし胸のしこりをほぐすひと時
元気でね 手を振り別れるクラス会切なきおもい会う年ごとに
穏やかに明けて宿りの伊豆の海沖の小島に寄る波もなし
五十年相棒たりし足踏みミシン今も現役コートを仕上げぬ

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