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2005年9月1日更新(22号)

トランス(30首詠)    月山 幽子

ジャンジュネに花束捧ぐひくひくと頬をつらせる深沢七郎
エロスこそすべてにあらむ鬱金色の夢にみだるる花陰と卒塔婆
ローズマリーぎしぎしかみて腐臭たつ都会の河の呟きを聞く
白しろ白夾竹桃とサルスベリ白き爪もつ紫外線舞ふ
活用形きはめて造語の手品師か木綿の好きな観客はこぬ
密通の柘榴一樹の呼び声に六月の森の奥に濡れゐつ
雫する樹下の緑の椅子の冷えバターだけが溶けてゆくのに
岩清水一つの音をずらしゐる緑の顕示押さへむとして
脳細胞みどりの色に染められて交響詩X音符となりぬ
紫に腑を腐らせし夭折のエデットピアフに群がるアポロン
生れしこと復讐として泣く幼児公害として視線の刺さる
可憐なるスズランなれば退屈の神が微量のインクで染める
登り蛇風に愛され舞ひ上る紫の墓地天上にあり
透析の管しどけなき白い部屋 粛清に似て静けさのみち
花柄の封筒のみを投函す言葉にすると消えてゆくもの
夜の仮面撮らんとすれば流れ星シャッターチャンス乱してしまふ
時計の針ちぎりて白き雨の日を遠望かすむ観覧車に乗る
ルビ振りをしたき漢字にためらへば静かなラヂオに周波の乱れ
誘惑にまけてずるずる落ちゆくも何故か翼は真っ白にして
微量なる毒はあれども召し上がれトランスがくる忘れたる頃
農薬の匂ひつーんとさくらんぼストップモーション体のことは
花を撮る男の視線ぬれてゐて不純なるもの光に灼かれよ
満月の日の近づけば無きはずの犬歯うづきてこころゆらぎぬ
胸めざし攀じ登りくる昼顔の蔓卑しくて油断のならぬ
われにむけ直進してくる柘榴あり聖書の園を追放されて
人生論読むほど落ちぶれたくはなし青きグラスにコーラー注ぐ
障害は才能よりも奥深く頬かむりするその輝きに
ゲテものの小道具ばかり起伏なき芝居は終る夏はもうそこ
樹姦とふ造語を聴きぬ奥山の大樹エロスへ誘ひゆけり
神々は多産系なり太陽へ捧ぐる供物は稚児の心臓

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