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2005年6月1日更新(21号)

自動ピアノ(30首詠)    月山 幽子

雨の日の自動ピアノは失禁し水滴たまるロビーの隙間に
葉脈のなき葉拾ひぬ窓ぎはに地図のごときを丁寧に描く
町角を曲る童子はブリキ製玩具に見ゆる 新学期くる
左あはせのシャツを身につけそぎゆかむ蛤のひだ牡蠣の部分を
絹状の砂漠は続くはろばろと星蝕の風毒を含めり
オリオンの構図は春へ傾きてくちなはの卵熱もちはじむ
大胆なカットを希ふ裁ち鋏エメラルド色のTシャツを切る
つぼみより泉のふきぬ便器とて少女を選ぶ感覚あらめ
スーパーに柩うらるる進化の日葬式ランク氷解されむ
星砂が醗酵してゆく瓶のなか不眠の鴉か窓際にくる
メラノームの如く悪意がひろがりぬカサブランカの冷ゆる小部屋に
淫らなるマリヤは青く澄む泉昼に翳さすフェルメールの青
淡き少女黒き葡萄を捧げ持つ死したる風への供物にあらむ
コンプレックス発送してくる脳組織デジタルセックス・デジタル葬儀
シンドローム・シンドロームの病にてはつなつの森に負の力みつ
脳なき雌に子供を宿さすは神の犯せる極上の罪
時の音故意かゆっくり響く夜未熟なメロン一口掬ふ
地図通り辿りつきたる目的地蟻の目線を変へたるときに
向日葵の花首刎ねし青年が醜き鴉を射程に収めり
光る蛇鉄橋渡る銀の陽に電車もきみも蛇になれるよ
たましひのエコーを取れと耳もとで囁くものの正体知らめ
鯉のぼり風を飽食そのうちに腹は裂けなむ差別のひそむ
鎮座して慎ましやかで陰湿な汝の名前を膵臓と呼ぶ
たっぷりと活性酸素たくはへて魚を腐らす海のあるべし
見るたびに昼顔の蔓気色ばみ月へむかひて敵意をみせる
花盗人の誇り返上枯るるまで花の精気を瞬時に奪ふ
地球儀の方から風の吹きてくる二重がさねの気流のみだれ
禁食の蝙蝠殖えて洞窟に共食いをせむ生き残るべく
しろがねの魚は宙にとびあがり月のプールに立ち泳ぎせむ
造花とて捨つるときには罪っぽし湿度べたつく逡巡のあり

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