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2022年5月1日更新(84号)

コンパスフラワー   馬宮 敏江

夕闇に怪しく浮かぶ白蓮のひと夜の風にあわれくずれぬ
又の名をコンパスフラワーとぞ白蓮の蕾は北向き教わりて知る
見上げたる二月の空のおぼろ月、明日はワクチンなお生きんとし
明日よりは初春(しょしゅん)の令月。太郎月。令和の世に生く幸おもう
声も無く千両、万両喰いつぶす 鳥は何鳥姿の見たし
二、三、粒 千両、万両食べ残す鳥には鳥の掟あるらし
スマホ打つ指に筆持ち年賀状孫の一途の虎のかがやき
日天(にってん)さま・月天(がってん)さま」と四方拝祖母の祈りの朝焼けの空
手作りの店の豆腐一丁を寒の水より掬いてくれぬ
値上がりと言えどレタスの二百円農する人の荒れし手思う
寒空に鵯の啼き声透りゆくどこかに()れる春めくけはい
息子に押され孫に押されて車椅子桜並木の眩しきひかり
角館・弘前城と花めぐり亡夫のあの日の笑顔の泛ぶ
事々(ことごと)にヨイショと気合い掛けながら越さねばならぬ老いの坂道
まっすぐに線香の煙上がる朝今日も一日平和をください
おぼろ月友の上戸を視付けたりふんわり包む砥部のグイ呑み
あの角を曲がるまでと門に立ち帰る()送る氷雨の夕べ
ようやくにエビネポロリと花ひらく春陽燦々啓蟄の窓
初めてのM.R.Iの闇の中 あといくばくの命を欲りて
負いし子に教えられつつ九十年山あり谷あり涙もありし
幾たびのハガキに返事無き友が九十二歳の自分史を編む
ストーブと炬燵の間を往き来するこの怠慢をコロナ禍として
今日もまた連敗更新のタイガース亡夫の歯ぎしり聞えるような
藤の揺れ卯の花つつじ咲き競う今年限りの春やも知れず
美しいやまと言葉に出会いたり 美智子さまの「祈り」読みつつ

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