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2021年1月1日更新(80号)

お伽噺のままに     馬宮 敏江

春を咲きインパチェンスの返り花師走の風に花つぎつぎと
「寄り添う」とあふれる言葉そのままに満月に添いわたりゆく星
あとひと(つき) 日脚延びるをこがれつつ柚子・南瓜を揃えて待ちぬ
ひそやかに冬のおとづれ待ちしごと黄をかがやかせ石蕗の一群
酷暑に耐えこぼれ残る千両の実はひそやかに色づき初めぬ
干し柿が、物干しが揺れ狭庭にもたしかに流れる生活(くらし)のにおい
阿波おどり披露せし夜も遠くなりぬ同窓会の京都「菊ノ井」
敲きたき庵に会いぬ「推敲」とう 誰が棲むならん真葛が原に
豪快にクシャミ二つ悩みごと秋青空に吸われてゆきぬ
寒晴れの窓全開し老いの匂い放しひ孫のおとづれを待つ
断捨離とたやすく云えど老いの身にズシリ重たき三文字(みもじ)のひびき
新調の濃きパープルの雨傘に時雨れる雨もうすむらさきに
無残にも去年刈り込まれし金木犀きげん損ねて蕾もつけぬ
月に一度無聊ならむと誘いくれる月曜マージャン 東、南、西、北
明日よりは再び無聊 五日間(いつかかん)訪ね来し()の帰る後姿(うしろで)
名も知らぬ草生の一群ひと知れず赤き花つけ玉の実を成す
クラスター・アラート・増えるカタカナ語、百歳生きるは無理と思いぬ
何時までのゴーストタウンかコロナ菌地球の生れし時かと思う
吾亦紅・鶏頭、秋を玄関に生けるも一人愛でるもひとり
はかなごと結んでひらいて玉すだれ白き波打つ夕べの風に
ベット(べっど)より踏み出す一歩が今日の(うら) 膝痛ひと日穏やかなれと
念仏と銅鑼の音にいざなわれ乙女の門出 変れるものなら
山ほどの胡蝶蘭に埋もれて美しく 美しくも死出という旅
蜩も虫の声なき味気なさ、秋のおとづれ風のそよぎに
阿波のスダチ・名古屋きしめん家に居て味あう幸せ昭和の身には
受付のムッツリの()が笑ったよ 今日の診察良好と出る
久びさに集まる息子・娘・孫、夕餉かしまし賑やかは良き
幾人(いくたり)の手を煩わせハンコ押しようやく手に入る「介護支援1」
「要支援1」貰って始める電動カート明日より拓ける老いの出発
はやぶさ2 リュウグウ星より玉手箱 むかしのお伽噺のままに

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