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2020年9月1日更新(79号)

コロナ・コロナ     馬宮 敏江

隣より「子犬のワルツ」流れくる椿の植え替えリズムにのりて
鉢植えのインパチェンスの花に棲む小さな小さなアリとカマキリ
朝窓を開けば飛び込む蝉しぐれ町をどよもしコロナの空に
眺めるより術なき外禁の日々の窓 笹のそよぎに秋立つ気配
待合室の廊下を押されて車椅子昔なじみの顔・顔・顔
予約時間二時間過ぎぬ欠伸三つ診察室の扉の重し
「この夏は死ぬかと思いし」師の言葉思い出すなり猛暑の日々に
キッチンセット買い替え食事の華やげり給付金をフルに使いて
高高と泰山木は花をかかげ静寂の町梅雨に入りゆく
故里より帰りて残るくに訛り幼な友らと語りし三日
蜩のこえ夕べに遠くの鐘の音 うっとり故郷の初秋のありし
ニーニー蝉・ミーミー蝉の影絶えて油蝉一色と友のたよりに
コロナの中帰るであろうご先祖さま明日は迎え火焚かねばならぬ
夕あかり残る西空手を合せ今宵流星とう共に参らせ
皐月風、田植え、桑摘み終りしか生臭き()のにおいなつかし
蚕室(さんしつ)に浅桑・夜桑・桑を喰む 大雨降るごと夜を通して
伸び伸びに遂に中止とコンサートこれが最後と思いおりしに
何となくコロナにかまけてひと日暮れハテ生き甲斐とは思う度度
失望の球児に贈る交流戦喜びに舞う白帽の花
何事も気儘となりし人の世にお仕置きのごとウィルスの荒れ
だんじりに盆おどり無き味気無さ若い二人がコロナ最悪!
入学式、卒業式もままならず春過ぎ夏過ぎ夾竹桃咲く
退職近き朝に夕べの靴の音 息子()は四〇年のひびきを持てり
職退きて年金生活(くらし)に移る息子()にご苦労さまの一杯を注ぐ
旱天の続きし空に轟ける雷神さまに手を合せたき
こもりいて季節忘れし久々を重おも揺れる百日紅の房
濁流の筑紫二郎の荒れ狂う夫と訪ねし人吉の町も
美しい赤松続くえびの高原 松茸一つも国のものですと
三十首上げねば何も手につかず昨日も今日も脳はストップ
四苦八苦やっとまとめし三十首良し悪し問わずこの安らぎは

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