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2020年6月1日更新(78号)

長い一日     馬宮 敏江

海近き和泉の山の春霞ふるさと恋しと晶子の歌に
山吹の束をほどけば紀の川のはこべの花の交じりておりぬ
夕刊がポツンとひとつ 夕ぐれを待てど届かぬ便りと知りつつ
県外の移動はならず ご先祖さまお盆にお会い出来ますように
ふる里の十二ケ月の花暦 蜂須賀櫻も遠き日のこと
花へんろ「同行二人の」のすげ笠の列もまばらと友の便りは
カラー二花 コロナの風に吹かれつつ純白の花凛とかかげぬ
窓に吹くひかりは変らぬ若葉風 長き禁足鬱深き日日
黒帽子・眼鏡・マスクを深々と犯人めきて五月青空
パチパチと快き音ひびかせて無聊の庭に爪切りはなす
禁足の町はさながらゴーストタウン燕・雀の地に低く飛ぶ
わが庭は今花盛り名も知らぬ雑草気ままに色とりどりに
とんとんと石段下りる喜びの夢は覚めずにありたいものを
足りぬならこの手で縫おうコロナ、マスク忍耐世代は不自由知らず
花模様・チェックの端切れでひたすらに防菌マスク娘や友に
身のめぐりで一日一首と教わりし亡き師の言葉いまも果たせぬ
ご無沙汰の葉書一枚をふるさとへおぼろの空の弥生満月
(チシャ卵)春の畑で産みおとす・立ち飲みしたる日のなつかしき
惜しみなく蒼天色どる山桜コロナの風に人知れず散る
今は亡き人の主演のドラマ三味コロナに貰ったこもりゐの日々
卒業式・入学式の無き春を悲しみ色の櫻満開
お手製の花柄マスクでペダル踏む淋しくさける桜並木を
玄関に一輪挿したる侘助の賞でくれる人の訪れもなし
ありがたき春分の日の陽のひかり窓辺のエビネ少しふくらむ
待ちかねし「宣言解除」に動き出す子等の笑顔に町のざわめき
撫で乍ら膝の痛みの機嫌取り踏み出す一歩が今日の占い
リハビリにと息子()に誘われし三人麻雀止まりし脳の少し動きぬ
無遠慮に「牌」交ぜる音たてながら外出自粛の長き一日
可愛いいね 車庫に小さな黄の自転車ピカピカひ孫の訪れたらし
「この花の名前はナーニ」ひ孫の問う「ほとけの座だよ 紫いろの」

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