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2019年3月1日更新(73号)

ばらーど    村上 豊

寒さには敵意むき出しザクザクと踏みしだきたり強霜柱
マスクせる人ばかりなる醫院ロビー流感のちからまだ衰へず 
冬旱雪の降らないきさらぎは開き放ちの冷凍庫のなか。だ。
彼奴らに移されたんだ流感を 眺めるだけで食へぬ恵方巻
高い熱つづけばきっとバカになる三十一音をつぎつぎと詠む
黒髪の人は免疫性高いはず新型なんだこの流感は
臥してゐし時に頭を占めゐたる三十一音ああ影もなし
コーンスープ眼鏡曇らせのみをへて邪気のたたかひこれでおしまひ
ちらちらと風花光る昼前を赤いバイクのメイルマンくる
友達の葉書や手紙まだ読まぬうれしいものはあとからがいい
元は確かに異国種なれどヴェロニカは他人めきゐる花いぬふぐり
星の瞳 瑠璃唐草の別の名も春のさきがけいぬふぐりの花
三月を迎ふる歓び抑ふるとどんより重しさむき曇り日
人生にさまざまの春とふ歌読むにわれにもありき黄緑の期
桜の芽囀ると詠む歌人ゐて確かめゆかむ芽吹くその頃
ポストまで行く気にさする早春日和たのしき絵葉書一枚しるす
木々芽ぐみおのづと微笑頒ちくるる甥の初孫の写真が届く
花盛る河津桜の映像がひたすら春待つこころには毒
鋭さをいつしか脱ぎて枯木原けむれるごとく芽ぐみ立ちゐつ
片付けて掃除をしたるご褒美とCDケースちらかしてゐる
エープリルフールと言ひて騙さるる者を哂ひき 若者の頃
びーどろのペンギンの群の一羽失せ()らざるものの無象の翳
黄水仙 連翹の花 盛んにてやうやく春の貌をととのふる庭
いたちぐさ不思議な別の名をもちて花輝かす連翹一本
復活祭(イースター)と知らず食せる茹卵こころちょっぴり瞬間耶蘇徒
花盛るさくらの清気浴みしかばさらに存ふること願ひ湧く
らんまんとさくら咲ひて頓ににほひわれの呼吸の美しからむ
仰ぎ見る枝垂桜の華鬘咲きはねず色なる膜にくるまれ
塊てささめきあひて群がりて上機嫌なりさくらの咲ひ
盛り上がり零れさうなる桜みて少年はねだるアイスクリーム

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