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2015年6月1日更新(61号)

白雲無根    馬宮 敏江

浅みどり深き緑の綾をなし五月の空に樟盛り上がる
小鳥のこえ若葉の風をききながら暁覚えず朝の幸せ
晩年の夫と日々の散歩道卯の花咲きぬ彼の日のままに
紀ノ川の香りたっぷり山蕗をひねもすコトコト 待つ人ありて
補聴器をつけてもしかと聞きとれぬ息子夫婦の普通の会話
ベランダの息子()と孫、ひ孫の洗濯物絡みてはなれて五月の風に
若葉の雨湯船に聞くが好きと云いし薄田泣菫ふと思う雨
衣替えどっさり干したベランダに若葉の風が吹き抜けてゆく
配達のヤクルトさんに「おばああちゃん」と呼ばれぬ程に口紅を引く
もういいよ と云う程生きてなお日々の株価の動き気になる不思議
着衣のままCTのトンネル息を詰め体の芯まで暴かれている
都となるか反対なるか投票日 大阪城の天守も揺れん
未だ寒き大阪城の標準木五輪のさくらに開花宣言
余命わずか友の両手を握りしむこれが最後の手を握りしむ
山ほどの思い出残し友逝きぬ六十年を共に在りしを
通り抜けのつつじ見んとて訪れし友らのお喋り花見忘れて
今月は花残月みちのくより異名で届く若葉のたより
菜種梅雨・筍ながし・花散らし・美しい語に耐える長雨
歌会終えつつじを見にと誘いくれる友らのありて まだ生きている
五月晴れに黄金(きん)の立像お薬師さまつつじ満開の庭統べませる
コンビニのおにぎり初めて味わいぬつつじ満開法雲寺の庭に
北風と南の風のせめぎあい昨日の春の陽今日なごり雪
還暦を迎える程の()に送る梅干し・らっきょ昔のままに
「白雲無根」賜いし色紙の色褪せぬ未だしがらみに支えられいて
単調の長い長い淡路道楝のむらさき小雨にけぶる
ローカル線各駅ごとに咲き満てる銘は阿波の蜂須賀桜
前山のかすめる桜借景に縁側に酔う故里にいて
テレビ無し新聞も無くラジオ無し晴耕雨読味わう五日
賑やかに色とりどりの合羽着て下校の園児に花の雨降る
先輩の残せる歌会受けつぎてささやかなれど十余年経し

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