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2015年3月1日更新(60号)

橿原の杜    馬宮 敏江

かすかなる春の匂いを持つひかり窓あけ放つ大寒の朝
「お待たせ」と白いはなびらほどけ初む侘助・白玉春立つあした
掌のひらに消える風花きさらぎの春のはじめのたよりともみん
日脚伸びようやくとどく朝の陽に窓辺の汚れの目立ちも楽し
冬ごもりやっと明けぬと秘境なる祖谷の里より梅咲くたより
届く文ひらくときめき嬉しくて筆の無精もついペンをとる
日の丸の小旗を貰い後に従く橿原の宮に祝いの行列
幾年(いくとせ)のいのち継ぎしか沿道に深ぶか続く橿の森林
久米寺の女身に心奪われし久米仙人の古事には触れず
手を合わせ過分を願い南無阿弥陀仏 笑って在すかご先祖さまが
雪を見ぬこの町に住み故郷の豪雪孤立のニュース聞き入る
雪やコンコン 灯油の車が流しゆく寒夜の町を途切れとぎれに
講座終え梅田の街のたそがれは電飾まばゆきクリスマス‐イブ
シャッター通り師走の風が吹き抜けるX-マスの煌めきここに届かず
部屋の内にシチューの匂いあふれいる一人の夜食の侘しきにおい
嫁も孫もB級グルメと追いかけるA級好みのわたしを置いて
物忘れしたが如きの休刊日新聞不用の人増えしとか
逝きし友の形見にめぐり守られて俳画、侘助、観音竹も
中天に今宵の満月おぼろおぼろ正月の酔いまだ覚めぬごと
息子()と孫と生れしばかりのひ孫いて四世代揃う初春の膳
ほんに天使羽根をたたんでまどろめる生れしばかりのひ孫の寝顔
しなやかな足の林立出発点未来へつなぐ襷を掛けて
敢えてこの苛酷な道を選びたるゴールを目指すたしかなる足
頂点を極めし羽生選手の四回転ありがとうの呟き忘れないで
三ヶ月かかりて仕上げしブラウスを春には元気で着られるように
胃をくすぐるめざしの臭いながれくる明日はわたしもめざしにしよう
欠伸してまたあくびする向いの席目をそらしても矢張りもらいぬ
カワイイ- というイメージが消えてゆくとどめを見せぬ大きな苺
みちのくの師よりいただく月便り乏月・菊月・異名(ことな)を添えて
散りしきる落花をうけて舞う「(シズカ)」操る勘十郎は静の化身 (義経千本桜)

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