2015年3月1日更新（60号）
いのち 稲生きみの
電車来て席取りゲームに遅かった口惜しいけれどゲームと思えば淋しさを抱くがに眠る
自分らしく生きてきたはず自分とは胸に言問う思い新たに
亡き義母が編みし毛糸の長ショール小春日に当て元へ納めぬ
神前の
目標は夢探求心思いやり若田さんのことば書き留めるなり
退任の監督思いつつ走ったと一秒差で勝利のアンカーに涙す 女子駅伝
女子駅伝一秒差にて２着なるアンカーの心中熱く思わる
ライオンが子供らと綱引きの動物園ありのままでは人訪れぬゆえ
大学病院の整形外科も何もせず貼り薬のみに夫帰りくる
診察券五枚を持ちぬ病む夫の大学病院へ歳月長し
病廊の手すりに寄りてゆく夫の寂しき肩にセーターかける
目薬は仰向けに寝て差す兄はくせそのままに八十路になりぬ
駅からの道に落すか私には大事なスカーフ来た道戻りぬ
電線よりカラス下りきて緑道を用があるらししばらく歩く
見ているのにお笑いがいいとチャンネルを変えて楽しげに待合室で
圭選手のような孫が欲しいですシニアの思いみんな同じよ
名選手に名コーチありは道理なり世界の五位をまぶしく見つむ
くしの歯の一本欠ける思いなり長姉逝きにし寿命と思えど
安否問う娘が電話に今日も言う「現状維持はすごいことだよ」
今ひとつ感動はなくアベノハルカスより見下ろす下界はおぼろにかすむ
バイクのおと階段上る靴のおと新聞受けに朝刊のおと
新聞受けに朝刊落ちるおとのして平和な国の幸わせのおと
図書館に予約せしこと忘れおりお待たせしたと電話いただく
ＣＴ済みＭＲＩ終え戻り来る夫へ温めの茶を差し出しぬ
昼下がりの病廊静かに人まばらレジ袋さげて医師通りゆく
七十歳を期に職退きし末弟よりまっ赤なリンゴ送りくるなり
「オレオレの詐欺は殺人」と寺の僧被害者責められ自死の多しと
注意すれば「知らんかった」と夫の言うだれがするのかトイレのそうじ
新しきいのち生れる人が死ぬ天地の神の差配と思いぬ
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