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2013年6月1日更新(53号)

解 凍    鈴木 禮子

わたしはね単独行(ソロ)が好きだと足早にまぎれゆきたる男の背中
遅刻してまた遅刻してすべもなしいつしかわれは終着駅に
チャンドラーの物語にはかぐはしき女性(にょしゃう)出できて微笑を残す
陽を受けて木の芽草の芽ころころに吾も詮無きことは忘れむ
春鳥の来訪しきり独りでも一羽でもなしチ・チと翔びたつ
解凍を重ねつづけて来し春が今朝満開の花桃となる
手間隙をかけて解凍の愚かさは一度で良しとまた思ふかな
春寒くとほき線路にいつぽんの櫻咲きをり薄墨ざくら
ひといきにドミノ倒しに雪崩ゆく知るべの死ありサクラ舞ひ舞ふ
行く先がよしや破滅に至るとも未知なるものは秘かに熱し
自惚れて堕落しいゆく賞賛を浴びてみたしとコラム氏の弁
ゴミ出してリサイクルゴミも運びつつかすかにわれは満足をせり
ネコ語少し解読可能、春浅く初老に入りしけものは走る
底抜けの無聊といふが時にありて抑へし猫もついに遁走
丈ひくく剪定したる蠟梅に約せしごとく花五・六輪
大寒をいとよろこびて芽に出でし鬱金香の太りゆく(とき)
補陀落やひとの夢みる善きところ在るやも知れず空夕焼けて
柳絮ゆれさくら花散る川べりに一期の逢ひを君と得たりき
ものみなは淡き過去形ゆめのみが現なるにかガラスのこなた
旧モードの名前つづける投稿者続く詠草の短かきさやぎ
レクイエム(なづき)ゆすりて溢れゆく追悼の日を締めむとするに
わが友の連合ひの死を聴いてゐる吾も然りき彼の日かのとき
啜りあげよろめきながら死者に賜ふ諸手に余りゐたる花束
過ぎゆける時のかなたに垣間(かいま)みるあれは男同志の友情(なさけ)
「北国の寒気を好む」と亡き夫の盟友の(げん)しみらに苦く
『炎天を仰ぎて寒し…』と悼句あり若く逝きたる夫の(はぶ)りに
うづたかき土くれ分けて尋めゆくに光増すあり肥りたる根が
わかみどり一斉に噴ききらきらと深山海棠立ちあがりたり
花作りにのめり溺れて時がゆく浦島花子とわが変名す
成長を阻まれたればなにかせむ(もだ)ふかきかも五月のバラは

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