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2013年6月1日更新(53号)

棚田百選    馬宮 敏江

佛隆寺にいまを盛りの千年桜 まつりとなりし宇陀の山里
山寺の控え目に置く「芳志箱」千年桜にぽとりと落す
花見して夜は孫たちと飲むビール何の不足のあろう吾が残生()
賑やかに下校の子らの通学路木蓮、白梅日々にふくらむ
つんつんと角出す擬宝珠、鳴子百合ただわけもなく(せわ)しくなりぬ
枯れたりと思いし擬宝珠、風知草かすかな芽吹き今朝の驚き
白蓮のほころぶ頃は亡父(ちち)を思う白蓮に埋もれ逝きしその日を
外に出て時には外を眺めよう篭れば知らぬ春の夕ぐれ
連翹咲き風はこび来る沈丁の香今日のひと日はほんとうの春
桜咲き出会い、別れの新年度あのアナウンサーも何処に移りし
うす霞む空に半旗の3・11 復興遅々とし三度目の春
酒屋閉じ空き家となりて二年経ぬ柿はしずかに新芽はぐくむ
お見事と云うほかは無し君子蘭三本立に朱の風舞う
確かめて出て来し筈をガス・電気不安もたげる電車に乗りて
独居の不便は時にきわまれり背なの膏薬貼りたき朝は
病院の受付手順も身につきぬ通院の道に四度目のさくら
まっすぐに上る香華の一すじに亡夫安らぐや春浅き朝
ぐんぐんと新芽を伸ばす赤芽柏(あかめがしわ)まさに穀雨の今朝の春雨
怒涛のごと人人人の改札口白髪目あてに友ふたり待つ
雑草の小さき花も芍薬も共に四月の風に揺れいる
菜種梅雨に宿りの無きかもんしろ蝶軒の庇に羽をたたみぬ
みず木咲き下校の子の声、救急車このけたたましき吾が町が好き
田植寒(たうえがん)を綿入れちゃんこの祖母の顕つ早苗田わたる風の冷たし
ふるさとの棚田に早苗ととのいて百選に洩れるもなお美しき
ポッポー 菜の花の野を分けてゆく一両ディーゼル徳島本線
心清めこころ静かに病院よりの再発おそれる娘の電話待つ
武蔵野の雑木林は良けれども矢っ張り遠い電話待つ身に
武蔵野の風もまといて大紫陽花娘より其の名も「ダンスパーティ」
己が身も何時かと思う二十年短歌(うた)でつなぎし友ひとり去る
友の皆唱える般若心経(しんぎょう)覚え得ず吾が家は朝夕南無阿弥陀佛

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