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2013年3月1日更新(52号)

賞 賛    鈴木 禮子

自惚れて堕落しいゆく賞賛を浴びてみたしとコラム氏の弁
おもざしは世代を超えて継ぎゆくか血筋と呼べるものが脈打つ
好きだつた歌人の姿すでになし生きすぎたりや蠟梅も涸
る 億ションは隅田の川に影落しここはいづこぞ森閑とせり
義弟病みて人たることを棄てたまふ人間わづか五十年とぞ
親子のみに通ひあふもの歴として顔容はときにものを言ふかも
あきらめはひそかに固き石となり生死一如とささやく声す
大地震に毀たれざりし尖塔を吾はながむるその高き塔
ひのもとの社寺に真似びしツリーにて雷門ゆわれは見放くる
冠雪の富士みあげたるひとびとが同じ思ひの息を吐きたり
()」の短歌(うた)はもつとも地平にちかくして戻りゆくべき光源ならむ
一日はまた終らむとしてうら寒し風つのり来る師走のかどべ
髪薄くなり果つるともをみなにて幾何(いくばく)の毛を切らせゐしひと
老いつつも髪整ふるこころざし目守ればややに涙いでくる
内装を一新したりこの日より壁に物貼る文化も消しつ
音もなくすさりゆく夜か大寒の寒気の無くば咲かぬがありて
使はずば即ち『ゴミ』と悟りたり八十年を過ぎてやうやく
待機灯蒼く散りばひ密室の花と思ひき深夜の闇に
光りを増すソネットふうの君がうた水泡(みなわ)のやうにひろごりてゆく
ちちははを戀ふ詩ではなく『傘寿のうた』魂鎮めむと沁みてゆくなり
旋律は歌詞に馴染みて動かざり黒人霊歌はたこもりうた
よぎりゆくメロディ今に忘れねば「ちぎれる程に振った旗…」をば
かすかにもまた聞えくる戦時歌謡(はやりうた)おと底ごもる短調の唄
水泳を水練とよびいそしみき彼のうらやまのの赤きぐみの実
とめやんと呼べる女のたぶれびと草食みゆくを怖れて見たり
麦秋とふことばなつかし幼子をいだきあげたる父母の若き手
鄙にしては稀なる美女と噂ありし十九の友は如何になりけむ
炒り豆は唯一無二の美味にして学徒動員の夜の寮舎に
品のよき紳士が盗むじゃが芋のたつたふたつが口惜しかりしか
やまひなべて栄養失調といふのみの壁も崩れし田舎の医院

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